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町田版 公開:2016年9月15日 エリアトップへ

町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の17 カラスウリ

公開:2016年9月15日

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 ホバリングするものと言えばヘリコプターやドローンが思い浮かぶが、操縦ミスで事故続きのオスプレイや、ジェット戦闘機のハリアーもそうだ。ホバリングを訳すと飛行定位であろうか。つまり浮かんで動かない状態を指す。人間が身体一つでできるのは水中での定位だけだが、これもかなりの技術を要する。鳥類には長時間ホバリングできる種類がいる。例えばハチドリ、カワセミやヤマセミ。カワセミは獲物を狙う時にホバリングして狙いを定め、一気に急降下する。時には自分の羽根を水面に落とし、虫と間違えて水面に浮上してきた魚を仕留める芸当もするらしい。

 今年の夏は長そうだ。湿度も高く、蒸し暑い上によく降る。台風も次々にやってきて、台風一過ならぬ台風一家のようだ。そんな夏の夜、夜の貴婦人と勝手に呼んでいる花が境内の片隅で咲いている。小野路の林で実を採ってきて種まきし、5年経ってようやく咲いたカラスウリの花だ。何故カラスなのかわからないが、とかく植物にはカラスやスズメが名前に登場する。カラスノエンドウ、カラスビシャク、スズメガヤ、スズメノテッポウ…。

 カラスウリの花は夜しか咲かない。鳥が種を運び、しばしば生垣などに絡んでいるのを見かけるが、葉の色は鈍く見栄えがしない上に繁茂すると手に負えないから、大抵駆除されてしまうようだ。また、もっと月明りに映えるような花びらにすれば良いものをほとんどがレースのように網状になっているから、直径5センチ程度の花は、暗がりで咲いていると肉眼では見つけ辛いほど。それでも、夜に散歩をすればどこかしらに見つけられるくらいポピュラーだ。撮影していてふと疑問に思った。「このレースを纏った貴婦人が誘っているのはどんな虫なんだろう」と。さっそく調べてみると、なんと私の好きなスズメガの仲間たち。幼虫が成長に従って模様を変えていくのも面白い。写真は模様がコミカルなセスジスズメの若い幼虫で、虫が苦手という方のために敢えて終齢幼虫は避けた。成虫の中ではウンモンスズメ(=写真)が素晴らしいと思う。先祖から引き継いだ自分の姿を鏡で見たことはあるのだろうか。中でもスズメガ科のホウジャクの仲間はハチドリに酷似している。カラスウリの蜜は花の柄のかなり奥にあり、まだ目撃はしていないが蜜を吸う様子が目に浮かぶようだ。近くにあるクチナシに毎年ホウジャク亜科のオオスカシバの幼虫がいるから、きっと成虫がカラスウリの吸蜜に来ているにちがいない。写真に収めたいと思うが、いつ飛来するかわからないスズメガを待って、灯もつけずに暗がりでじっとカラスウリを凝視し続けるのはきつい。そして怪しい。更に藪蚊とのバトルだ。確実に負ける。

 とりあえず、この貴婦人のお相手が判明してひと安心。たとえ目につかなくても地道で逞しい営みを続ける草木があって、さらに虫というパートナーもいる。葉を食べさせる草があって、花に誘われて蜜をご馳走になるかわりに、まんまと受粉作業を手伝わされる虫がいる。受粉して実をつければ鳥が食べて種を落とし発芽する。この絶妙なサイクルに人間は手出しをしてはいけないと思う。自然を労わり、思いやり、うまく付き合っていく。人間社会の付き合いもそうありたいと望むように、自然とのつきあいも同じでありたい。日々のせわしなさに流されてしまう自分を時折もう一人の自分に眺めさせ、身の回りが騒がしいときは、人も心をホバリングさせて、時間や景色をドローンのように見渡してみることも大切かもしれない。人も草木も虫も地球上の生物で、大小に関係なく命は一つしか持ち合わせず、生まれたからには死亡率は100%。どう共存するか考えてみるのも良いことだし、そんな時間がリラクゼーションにもなる。

 ウィキペディアで調べるのも考えものだ。たくさん花をつけるのが雄株だということも分かってしまい、つまり貴婦人と呼んでいたのにオスだった。なんてことだ。
 

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