町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の21
人と菌
数年前のある日、町田市内の公園を散策していて奇妙なものを見つけた。強風で倒れかけたサワラの木にヨーグルト状のものが点々と張り付いていた。大きなもので3〜4センチ。近づいてみるとブツブツしている。触れてみるとやはりヨーグルトそっくりでブツブツが壊れてしまう。少々気になったので帰りがけに小瓶に少しだけ採って持ち帰った。すると帰宅する頃にはブツブツが戻っていた。調べてみたら「粘菌(ねんきん)」という移動する菌類だと判明。瓶の中のものはしばらくして溶けてしまったが、すぐさま公園へとんぼ返り。
しかし4時間以上経過していたために目の高さくらいにあった白い集団は手の届かないところまで移動していた。次の日、再び訪れると2メートルほど上で想定外の姿になっていた。純白のヨーグルト状の粘菌は茶褐色の霜柱のような形で立ち上がり、しかも風がそよぐと粉になって先端から飛ばされていく。調べた本にあったクダホコリという粘菌だとわかった。粘菌は他に黄色いものや黒っぽいものなど数種類あり、大学などでも研究しているらしい。胞子になって飛んでいく点ではキノコと同じだが、移動するという特性には驚きだ。
大気中にはあらゆる菌やウィルスと呼ばれる微生物が常に飛んでいて、キノコや粘菌やカビの菌は各々が好む条件の場所に張り付くことで自然発生する。カビの類はあらゆる場所に発生するし、たとえ市街地や住宅地であってもキノコが出ることがある。以前知人宅の庭にキノコが出たという知らせを受けて見に行くと、芝生の椿の切り株に束になって生えていたのはエノキタケだった。売っているものとは似ても似つかない形。美味しくいただいた。
風と共に飛ぶ膨大な数の菌、建物の中にはよどむ菌。人体はそのほとんどに対抗する能力を持っているから、いちいちキノコやカビの菌を吸いこんで病気になるようなことはない。しかし稀に人体に悪さをする菌もいる。インフルエンザ、病原性大腸菌などが有名だ。一方、人体に良い菌や発酵食品では、ビフィズス菌、乳酸菌、納豆菌、酵母、麹菌などが有名どころだ。また我々の肌には常に数百個の菌類や微生物が張り付いているが、これらが直ちに悪さをするようなことはない。他のバクテリアが来ると戦ってくれるやつもいる。要するに我々の肌は彼らの生きる庭であり、そこを守るために彼らも一生懸命なのだ。それを石鹸で綺麗に洗い流すのは肌にとって自殺行為で、新たな細菌が張り付く余地を作ってしまうということになる。亜熱帯ジャングルの未開地の子どもたちの肌がとても綺麗なのは、化学性の洗剤どころか石鹸も使わず、日常的に川の水で洗うだけだからこそ、肌の微生物が増えも減りもせず、知らずして上手に付き合い守ってもらっているからだろう。自分の身体を確かめてみてほしい。普段最も洗いづらい背中が一番きれいで、毎朝洗う顔や手が一番荒れていることだろう。それをケアするために化粧品やスキンクリームをせっせと塗る。石鹸と化粧品の巧みな罠にはまって逃れられないのが先進国の特色でもある。
このように考えると、菌類と人間は密接に付き合ってきた歴史があり、直接口にするキノコ類から、発酵という菌の働きで出来上がる酒類、漬物、納豆、チーズ、ヨーグルトなど、食品だけでも多くの恩恵を受けている。また、結核の特効薬は青カビから発見されたし、内臓の薬としてたくさんの菌類が活躍してくれている。
最近、福島から避難を余儀なくされた人たちが辛い思いをしている。殊に子どもがいじめを受けて不登校になっているという。報道されたのは当然一部に過ぎないのだろう。「菌」を名前に付けられて友だちだけでなく教師にまで呼ばれた子どもの気持ちはどうだろう。明らかに良くない菌の総称である「バイ菌」の「菌」だ。日本の教育はどうなってしまったのだろう。心や中身のない見せかけだけの先進国だ。いじめた子たちや心無い教師こそ矯正の必要なバイ菌であり、福島を経験したすべての子どもたちは、むしろ日本の未来の希望となる良質な菌なのだ。
「いじめた子は生涯恥ずかしい悔いが残り、いじめられた子は生涯忘れない」
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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