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町田市立博物館より㉕ 焼きものの直し方 学芸員 矢島律子

掲載号:2017年4月27日号

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展示中の『染付牡丹文大皿』「ぜひ裏側も観てください」
展示中の『染付牡丹文大皿』「ぜひ裏側も観てください」

 開催中の「藍色浪漫〜伊万里染付図変り大皿の世界〜」で、大輪の牡丹を描いた大皿が中央の独立ケースに展示されています。上質の呉須(ごす:顔料)をふんだんに使った深い藍色が美しく、本格的な絵の修練を受けた画工が描いたと思われる見事な絵付です。この皿には、ご所蔵者がお教えくださったもう一つの見どころがあります。ケースの反対側にまわると皿の裏側に見えるその見どころとは、底の周辺をぐるりと巡るホッチキスの針金のような留め金具です。

 この皿は、巨大な上部を支える高台(こうだい)とその周辺に圧力が掛かり、すっぽり底が抜けるように割れてしまったのです。それを鎹(かすがい:金属製の留め金具)で留めて元の姿に直しています。皿にひびが入らないように慎重に小さな穴をうがち、ガラスの粉を振り込み、鎹をはめ込んでから火で熱してガラスを溶かし、皿に鎹を接着しています。表から鎹が見えないだけでなく、割れた痕さえも気づかないほどぴたりと密着しています。この作品ほど大きくて見事な皿になると相当に高かったと見え、このように修理して使ったのです。この見事な牡丹の花を捨てるに忍びなかったのかもしれません。

直して名品に

 鎹による修理の方法は中国から伝わったと思われます。東京国立博物館に「馬蝗絆(ばこうはん)」という銘の美しい青磁茶碗があります。室町幕府の将軍足利義政が愛蔵していましたが、ひび割れが生じたため中国に送って同じものを作らせようとしたところ、「これほどのものは今の時代にはもう作れない」と、修理して返してきたという伝説が残っています。鎹の様子を大きな蝗(いなご)に見立てて「馬蝗絆」と銘をつけたといいます。日本では鎹留めの修理は江戸時代から戦前まで行われていました。

どうやって直すの

 実際はどうやるのか、筆者世代の陶磁史研究者には謎でしたので、「初恋のきた道」という中国映画は大変話題になりました。チャン・イー・モウ(張芸謀)監督映画で、これが初主演・出世作となった女優チャン・ツィイー(章子怡)の初々しさが素晴らしく、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した名作です。筆者はツィイーの大ファンですが、この映画が大好きなのは、さらに加えて鎹留めのシーンがあるからです。ツィイー演じる僻村の少女が、都会からやってきた若い男性教師に恋心を抱きながらお昼ご飯を作っては運ぶのに使っていたのが、染付の鉢。やがて、彼は町に呼び戻され、おまけに想いを込めて使っていた染付鉢が割れ、少女は心破れて寝込んでしまいます。母親は可哀相な娘のために修理屋を呼び、買った方が安いよと言われながらも思い出の染付鉢を直します。その修理方法が鎹留め。このシーンは仲間内でブームになりました。なかなかの離れ業で、「なるほど、だからぴたりとつくんだ、すごい!」と感動しました。

 鎹留めは、傷ではない。ただの倹約でもなく、美しい焼きものに対する昔の人々の愛情を見ることができます。
 

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