宮司の徒然 其の29 町田天満宮 宮司 池田泉
「年月の計り」
九州地方の楠は近年瞬く間に全国に広まった。常緑で成長が早く、しかも除虫成分があるから害虫に強い。こぞって道沿いや公園に植えられたが、成長が早いゆえに街路樹としてはやがて根が舗道を壊すほどになる。樹齢千年を超える大木が大宰府天満宮にあることから、当社境内にも40年ほど前に植樹された。今では境内で最も太い木になり、数年に一度大掛かりな枝下ろしをしないと、高い所の営巣を好むカラスたちが集まって大変な騒ぎになってしまう。また、成長が早い分幹が柔らかく折れやすい。東京の稀な大雪の際には腿より太い枝が全く粘りもなくへし折れるくらいで、大雪と台風の時は楠の下は要注意だ。新芽との生え変わり、つまり落葉は意表をついて5月。毎日雨のようにたくさん落とす。参道の掃除をしながらくだらない俳句などつぶやく。「クス掃いて ひと風そよぎ 元通り 笑うしかない クスクスと」(駄作で陳謝)。ただし、防虫効果を利用して、下ろした太い枝を玄関などに置いておくだけで、”天然の虫コナーズ”になり、木が乾くまで効果は持続する。
樹齢千年の楠でさえ知らない九州の歴史がある。高校時代、地学が好きだったからか、大学時代前半は小平市で発掘のバイトをした。その現場の目指す遺物は石器時代の石斧や黒曜石の矢じりなどで、深さは5mにもなることがあったから、地層を見て楽しむこともできた。高校の地学で習った中で特に印象に残ったのが「姶良(あいら)パミス」。九州の姶良火山が噴火した際に関東に降り注いだ火山灰が圧縮されてできた厚さ1cmほどの軽石層だ。実は鹿児島湾全体がその姶良火山のカルデラで、桜島はカルデラのほんの一部から噴煙が上がっているにすぎない。姶良火山の大噴火では周囲100Kmを火砕流が襲い、それが固まって現在のシラス台地になっている。九州全土に深さ30m、四国や山陰に10m、関東にも10cmの灰が積もり、関西以西の旧石器人や縄文人は全滅した。発掘のバイト中に分厚い関東ローム層の下に必ずある細い軽石層を見ては、古代の大噴火の強大さに為す術のない人間や動植物の弱さを感じた。
こんなにわか知識を持っているものだから、未だ終息が見えない熊本の地震で活断層の図を見たり、震源地の移動などが報じられるたびに、桜島どころか姶良カルデラは大丈夫なのかと不安になったりする。東京に10cmの灰が降るだけでも経済はストップし、東北・北海道に避難を強いられることになる。ただし、冷静に考えれば姶良は2万9千年前に噴火して、その後は外輪山である桜島がガス抜きを続けていて、次はいつかなどと予測もできない。取り越し苦労というものだ。とりあえずは、2万9千年や樹齢千年と比べれば、髪の毛の太さほどもない私の残りわずかな人生で、熊本城が修復されたら必ず訪れて、その雄姿を眺めたい。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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