宮司の徒然 其の30 町田天満宮 宮司 池田泉
「着飾る目的」
人間以外の生き物は概ね雄が派手だ。よく知るところでは、ライオン、キジ、ニワトリ、カブトムシ、蝶や蛾。身を守るのであれば、目立たないように極力地味にするか、反対に威嚇するくらいに雌雄共に派手にすれば良いかもしれないが、いずれも伴侶を獲得するという目的が雄を派手に強そうにしているし、虫に至っては擬態も兼ねた巧みなコスチュームを生み出してきている。写真はラミーカミキリ(【1】)、エサキモンキツノカメムシ(【2】)、キバラケンモン(【3】)、ビロードハマキ(【4】)、マダラツマキリヨトウ(【5】)。いずれも、気の遠くなるような長い年月をかけて試行錯誤の進化を成し遂げている。しかし人間社会は概ね逆で、女性の方が化粧をしたり着飾ったりしている。しかも雄を誘っているわけでもなく、「流行、趣味、見栄」などの要素も強い。流行や有名人のファッションを真似るのは擬態と言えないこともないが…。
東北震災後の神社関係の研修参拝旅行はしばらく東北方面がほとんどになったが、団体の参拝旅行であって現地の生活状況などを身に染みて感じられるほどの長逗留ではない。せいぜい風評で不況になっている有名ホテルに宿泊し、現地の名産品を土産に買い求めるなど、被災地の活性化にわずかながらでも貢献できればという思いで出かけるのであって、被災地視察団ではない。そんな中でも率直な感想といえば、「東北の山間の町や海沿いの漁師町に対する風景のイメージが全く違うこと」。未曾有の揺れと津波で破壊され流されたのだから、立ち並んでいるのはこちらでいうところの新興住宅地のような建物ばかり。倉庫や犬小屋でさえも新しい。それがかえって私にとっては悲しく感じられた。生活の全てが流されるということは、そこで生きてきた町並みや海岸の景色も全てが思い出の中だけになってしまったということなのだ。
震災で仮設または他地域に避難して暮らしている人は15万人以上。施設面の復旧状況は予定の3割。お隣の横浜では避難して暮らす子どもが、あろうことか言葉や暴力のいじめに遭い、果ては国から補助金があるのだからとお金を親からくすねてこいと脅され、不登校になった今はフリースクールに通っているという。そんな状況を学校側も知っていて対応していなかったというから情けない。新しい土地に馴染めなかったり、言葉や習慣が違うために卑屈になっていたり、その子にも隙はあったかもしれないが、そんなことは受け入れる以前に当然わかっている要素なのだから、どうしてもっと適切な教育指導ができなかったのだろうか。謝って済むのなら関係のない私も謝りたいくらいだ。せっかく生き残った子どもを傷つけてどうする。日本の教育は心が置いてきぼりになりつつあるのかと思うと、これもまた悲しい事実だ。たとえ町並みは戻っても心の傷は癒えない。まだまだ本当の復興は遠い。
東北の復興が進む中、広島の豪雨、熊本地震、今年は九州北部豪雨と、自然災害は容赦なく続く。奇しくも今年4月、大宰府天満宮を皮切りに高千穂、宇佐神宮、英彦山神宮、宗像大社を参拝して廻った。途中で立ち寄った東峰村で名産の小石原焼きのマグカップなどを購入した。まさかあの東峰村の小沢が氾濫してしまうとは想像できるはずもなく、毎朝コーヒーを飲むたびに、そこかしこに窯元が点在する谷合の村の景色が思い浮かび、一刻も早い復興を祈るばかりだ。
そして国は、これほどに自然災害の多い国土のどこかに「核のゴミ」を埋める場所を探している。ゴミありきだったはずなのに、対処法も考えずに来て全国の候補地は大騒ぎ。賛成派と反対派で穏やかだった地域に争いを生み、どちらの結果になろうと、ここでも遺恨だけが置いてきぼりにされる。負の連鎖だ。表向きは文化国家、治安国家だと先進国を自負していても、外用に着飾るだけでなく、国民が望む平和という本来の目的を忘れないでほしい。トランプ氏は支持していないが、彼が某国のリーダーに対して「あいつは他にやることはないのか」と発言したことだけは名言だと思う。膨大なお金を消費してミサイルを乱発するよりも、困窮している国民を救ってあげてほしい。核兵器で着飾るより国民の平和を第一に考えて軍縮すれば、手を差し伸べる友好国は少なくないはず。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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