町田版 掲載号:2018年12月20日号
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町田市立博物館より36 「金箔触るな」 学芸員 矢島 律子

(写真=東京国立近代美術館蔵)
(写真=東京国立近代美術館蔵)

 現在開催中の「没後50年記念加藤土師萌展 ― 色絵磁器を極めた人間国宝 その技とデザイン ―」展のポスターになっている「萌葱金襴手丸筥(もえぎ・きんらんで・まるはこ)」を納めたカートン(段ボール箱)の上には、黄色い札に太い赤マジックで「金箔触るな」と書いてありました。ご覧のとおり丸い器の全面に金箔の花唐草文が焼き付けられています。「金襴手」とは金を織り込んだ綾錦のようだ、という意味です。この作品の最大の見どころのうえに繊細で、万が一の場合においては修復が難しいからです。「むむ、触らないでどう持つの?」と思わずうなってしまいました。

 本展は岐阜県現代陶芸美術館から巡回してきた展覧会です。巡回展の良いところは、参加館の企画力や交渉力を結集してより良い内容と作品を獲得でき、図録製作や展示備品などの経費が節減できる点です。その反面、大きな課題が作品の安全確保です。作品の出し入れや展示・撤去、輸送の回数が増えれば作品に危険が及ぶ可能性も増えます。もっとも神経を使うのは、前の館からの受け取り作業です。作品の情報をきちんと受け取らないと思わぬ事故に結びつきます。そこで、全作品の状態と付属品、梱包状況をもらさず記入した調書を作り、受け渡しをする2館の学芸員で一つずつ確認を行います。「ここは弱いので持たないでください」「この袋は緒が弱っていますので使わずに作品の上に薄様(うすよう/専用の薄い和紙)で包んで置いてあります」「この蓋は漆塗りなので白手袋を使ってください」などなど。

 作業に当たっては、美術品の取り扱いを専門とする美術輸送専門業者が補助をします。日本博物館協会が認定する美術品梱包輸送技能取得士に認定された者かその指導を受けた者数名が、学芸員の指導監督の下、作品の借用・返却、展示・撤去作業に当たります。巡回展の作業全てを同じ顔ぶれで行うのは現実的には難しいので、作品情報を把握した熟練者一人をチーフにして全作業に参加してもらいます。それでもうっかり情報伝達が漏れる可能性が残ります。そのため、誰でもよくわかるように外側の段ボール箱に警告札を貼ったりします。今回の「金箔触るな」札はその一つです。

 学芸員自身が取り扱えなくては、作業員に指示ができません。岐阜県現代陶芸美術館で丸筥の展示ケースの周りをぐるぐる回って考えました。作品の状態は良好、蓋と身の内側、底は染付け銘だけの白磁であることを確認して段取りを考えました。いかに金箔を避けるか、安定して作品を持ち上げ、移動させるか。字数に限りがあるので詳細は書きませんが、箱にきちんと収まるまで全く胃の痛くなる作業でした。それを今度は、町田市立博物館で開梱し、展示するのかと思うと……。

 でも、そんなことは全く苦にならないほど、この清純な若芽のような緑とそれを背景にきらめく金は美しい。それに、加藤土師萌さんは文字どおり、この「萌葱地金襴手」に命を懸けたのですから。
 

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