町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の50
相思華
平成から令和、個々の自然災害はそれぞれ地域毎に死傷者を出し、甚大な被害を受け、復興と生活再建に向けて大変な苦労をしている。これをあえて大きくくくって考えると、近年日本の災害の発生頻度は間隔が狭過ぎると誰しも思うだろう。支援の手をどこへ差し伸べたら良いかわからなくなる。殊に台風や大雨は我々の季節のイメージを覆すほどで、台風や豪雨と言えば9月という感覚が今年は一カ月もずれている。
ここ数年の観察で、9月下旬の彼岸に行なわれる当社の秋季例大祭直前に、勢いよく花芽を吹き出してきて祭りの最中には満開になっていた彼岸花が、今年はとうとう祭りに間に合わなかった。地球規模の気候変動はついに土中にまで影響し始めたらしい。境内がごった返す祭りが終わってから咲き始めた彼岸花は、例年より傷つくこともなくきれいに咲き誇ってくれたが、気候変動の影響の表れと考えると喜んでもいられない。
彼岸花は6個の花がロゼット状に並んで一つのように見える。日本ではめったに種で増えることはなく、球根が増えていくタイプだから、国内各地に広がった経緯は人為的な部分が大きい。数多い別名の中でも「曼珠沙華」はヒンドゥー教のサンスクリット語を漢字に当てたものだが、学名のリコリスはギリシャ神話に由来する。有名な神社の金刀比羅神社の「コトヒラ」は、ガンジス川のワニの神「クンピーラ」が伝わってきたものという説もあり、恵比須神の「エビス」はギリシャ神話の神「エイブス」が語源のようだ。つまり、ギリシャやインドなどから伝わり、中国を経由することで漢字になり、日本に渡ってさらに読みやすく呼びやすく変化する。こういったものは探せばたくさんあるはずだ。
さて、彼岸花は毒草というイメージが強いが、インドで赤い花はめでたい花。もともと日本でも、田畑の際に植えたのは強い毒性がモグラやネズミ、虫などが嫌うのと、デンプンが多い球根を飢饉の際にはしっかりと水にさらすことで毒成分が抜けて食用にできたという理由であったらしい。さらに球根にはアルツハイマーの治療薬になっている毒成分もある。ただ、素人が扱うには死に至るほど危険なことや、ミミズ除けのために墓地に植えられるなどして「死人花」と呼ばれたり、日本でのイメージはさほど良いものではない。黒猫を不吉とする日本、黒猫をバステトと呼び神の使いと崇めるイスラム諸国。国によって捉え方は様々なように。
彼岸花属は相思華(相思花)とも呼ばれる。花が終わってから葉が吹き出す。花と葉は互いを見たことがないから、「花は葉を思い、葉は花を思う」。まだ行ったことのない知らない土地であっても、なんらかの形でも支援したい、応援したいと思うのは当然のこと。島国日本民族は思いやりや犠牲的精神が遺伝子に組み込まれている数少ない民族だという。相思華のように互いに思いつつ、我々はいつか葉が花を見ることも叶う、狭い日本だから。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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