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掲載号:2020年11月26日号

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ヤブニセモドキ

 初秋まで純白の小さな花と玉のような蕾をつけていた藪茗荷(ヤブミョウガ)=写真右下=も、いよいよ冬に向けてくろがね色の艶をまとった紺色の実を揺らす。茎や葉は茗荷にそっくりで、やぶの中によく見られることから藪茗荷と名付けられたが、茗荷はショウガ科で藪茗荷はツユクサ科、特に花の付き方に大きな違いがある。茗荷はショウガ同様に葉の茎とは別に花の茎が根から出て咲く=同右上。茗荷の花の茎は短くて根から地上に顔を出したら咲く。なるべく花芽が出ないうちに収穫して、薬味などで有効利用される。つまり似て非なるものに「やぶ」を付けて呼ばれてしまった藪茗荷だが、春の新芽は食用にもなる優れものだ。ごく当たり前に食べるものや鑑賞して楽しむものに対して、やぶの中に生えていて地味だからというイメージでヤブラン、ヤブマメ、ヤブコウジ、ヤブムラサキなど、どうも格下にしている感がある。どの草木も人間に食べられたり、鑑賞されたりするために地球上にいるのではない。

 JR横浜線を挟んで反対側付近を起点とする2・2・4号線は、繁華街とバスセンターを抜けて森野、木曽から矢部の八幡様まで伸び、街路樹はニセアカシア(和名はハリエンジュ)が並ぶ。ニセアカシアはアカシアに似て非なる木として名付けられた。「偽(にせ)」を付けるのはどうかと思う。ニセアカシアとしておきながら、実は本当のアカシアより人間生活に関りが深い。よく知る歌謡曲に登場するアカシアは、その多くがニセアカシアのことで、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」やレミオロメンの「アカシアの花」などもニセアカシアだ。また、アカシアと表記されている蜂蜜の半数近くはニセアカシアで、殊に長野県の蜂蜜は7割にもなる。地域によっては花を天ぷらにするのが季節の恒例であったり、酒やシロップにして香りを楽しんだりもする。成長が早く街路樹や山林の早期緑化にも利用されている。

 同じく似て非なるものの意味でモドキを付けられた植物では、ツルウメモドキ、キノコではヤマドリタケモドキなどがある。ヤマドリタケモドキはヨーロッパではセップとかスタインピルツと呼ばれ、料理には欠かせない優れた食菌だが、日本ではまるで偽物のような扱いだ。長野県の山で採取して食してみたが、本家のヤマドリタケよりむしろ食味は優れているかもしれない。

 ヤブ、ニセ、モドキと名付けたのは人間の勝手。どれも固有の植物で、それぞれに優秀な進化を遂げてきたものたち。似ているからと見た目で安易に判断するのは良くないし、これこそ人間の欠点で、歴史に多くの差別を生み出してきた基本的な資質ではないだろうか。
 

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