▽「1726年から1回も欠かさずに祭礼が挙行され、明治維新の動乱の中でも整然と行われた。2025年の三百年祭を土産にあの世へ行きたい」。開成町の禹王研究家、大脇良夫さんが先ごろ記者とのやり取りに添えたメールの一文だ。「土手を守る風習」が残る福澤神社の研究は今年で13年目。堤を守る禹王研究は全国区となった。大脇さんら関係者の上申を受けて市は昨年、文命堤にまつわる石碑など6点を指定有形文化財とした。
▽私たちの郷土には、地元の人さえ知らない言い伝えなどの歴史が潜んでいる。大脇さんは、福澤神社に通い始めて半年後の2007年夏に境内の北側で土中に埋まっていた江戸中期の文命宮の祠を発見。その祠には文命堤の築堤を指揮した田中丘隅の名が刻まれていた。現在は境内でその姿を観ることができるが、もともとの台座と笠石は依然として行方知れずで、文命宮本来の姿を存命中に探り当てることが大脇さんの夢ともいう。
▽福澤神社のある南足柄市をはじめとする足柄上地区の郷土史行政は、長らく学者や民間の研究家らに支えられてきた。昭和後半には市史や町史編さん事業が進み、多くの史実が明らかにされた。郷土史研究家と行政が積極的に連携する地域では歴史講演会が開かれ人気を博している。郷土の歴史や文化に関する知的欲求は、郷土愛と暮らしの潤いを醸成し、地震や風水害の歴史に至っては次世代に申し送ることで命を守る防災対策にも役立つことは言うまでもない。
▽今年4月の統一地方選挙では、人口減少や商工農業、子育てや高齢者福祉、教育を中心とした政策論争が起こるだろうが、加えて、郷土史のさらなる発掘と活用の政策について議論してはどうか。文化行政に光を当て、持続可能な政策を立案し、長期的展望に立ち施策に取り組めば、先人が地道に積み上げた郷土史の価値がさらに高まるはずだ。郷土史や文化を新しく始まるこれからの時代のまちづくりに活かさない手はない。一見すると地味な分野だからこそ、政治課題として注目し直してはどうか。
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