優れた技術や知識を有し、各分野の第一人者として活躍する技能者を県が表彰する「神奈川の名工」が、先月発表された。本紙では鎌倉市内から選出された3人の「匠」の横顔を紹介する。第2回は市内腰越の石工、大山民治さん(68歳)。大山さんは記念碑や石積、石張を得意とし、その巧みな技を後進にも積極的に伝えており、職人の技能及び地位向上、業界の発展に寄与していることなどが評価された。
「父を想い、内定辞退」
市内腰越生まれ腰越育ちの大山さん。家は祖父の代から続く石材店だが、親から「継いで欲しい」と直接言われることもなく、中学卒業後はサラリーマンとして働く予定だったという。しかし就職を目前にして「自分が継がないで家業を終わらせていいのか」と自問自答するようになり、内定を辞退して家業を継ぐことを決意、職人の世界に入った。
客との打ち合わせは週末になることが多く、土日のない生活。それでも休みを合わせて友人らとドライブに出かけることが息抜きだったが「自分の選択に迷っていた時期もあった」と苦笑い。しかし中学時代の恩師が「継げて良かったな」と認める一言をかけてくれたことで吹っ切れたと振り返る。
父の死後、1984年に会社を継ぎ、これまで腰越の東漸寺や宝善院での石積、石張や記念碑の施工のほか、一般住宅など幅広く手掛けてきた。技術を磨くことはもちろん、打ち合わせの段階から丁寧な説明を心がける。「自分の仕事にどれだけ心を込めることができるか。今でも努力している部分です」。
「石と向き合う」
現在は景観保護などの理由から採掘は禁止されているが、昔は「鎌倉石」が浄明寺や十二所などの地域で採れていたそうだ。比較的柔らかく、摩耗しやすい性質を持つが、よく水を吸い、苔が生えやすいため、市内の寺社の石段などでよく使われていたという。
「石は一つ一つ特性も状態も違う。それに合わせて仕事をするのが職人としての腕の見せ所」と話す。職人になったばかりの頃は、ノミなどの道具を使い手作業で石を加工していたが、東京オリンピックが開催された時期を境に、技術が格段に進歩した。例えば石に文字を彫るのに昔は1文字1日かかっていたが、現在では3分の1以下の時間で作業は終わる。そんな今だからこそ、「これまでの経験が生きている」と語る。
次世代へのエール
これまで培ってきた技術と経験を、講習や勉強会などで積極的に後進に伝えている。そのほかにも、神奈川県石材業連合会の副会長、そして鎌倉石工組合長として職業病である「じん肺」の検診の重要性を長年訴え、石工職人たちの健康を守るための努力も続けていることなどが今回評価された。
「大きなことをするときも一歩一歩の積み重ね。自分の中で決めたことはやり遂げてほしい」と、穏やかだが重みのある言葉で次世代にエールを送った。
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