鎌倉を愛し、鎌倉で働く人たちの「ワークスタイル」にスポットを当てるこのコーナー。今回は「山屋製餡所」(市内長谷)の山前譲さん(40)を紹介する。山前さんは和菓子に欠かすことができない「あん」を70年近くにわたって作り続けてきた老舗製餡所の3代目。近年は顧客の要望に合わせた「オーダーメード」な商品作りでその可能性を広げている。
鎌倉文学館そばの路地を入った場所にある「山屋製餡所」。山前家は前田侯爵に仕えて、明治期に金沢から鎌倉にやってきたといい、祖父・外次郎さんが戦後間もなく同社を創業した。
「5人兄弟の真ん中」の山前さんが家業を継ぐ決心をしたのは、高校進学を控えた頃。兄とともに父・眞一さん(74)から将来について尋ねられた際「継ぎたい、と伝えました」という。
その時の気持ちについて山前さんは「子どもの頃、夜中にふと目を覚ますと機械の動く音が聞こえることがありました。遅くまで父が頑張ってくれているのだと思うと何とも言えない誇らしい気持ちでした。一年中休みなく働く両親の姿を見て、仕事の大変さはよく分かっていましたが、自分にとっては自然な選択でした」と振り返る。
高校を卒業後、市内の和菓子店で3年間の修業を経て、21歳で製餡職人としての生活が始まった。
要望に合わせ商品作り
山前さんの一日は、朝の配達から始まる。得意先は鎌倉市内を中心に、茅ヶ崎から横浜まで50軒以上に及ぶ。配達を終えて午後、工場に戻るとすぐに商品作りに取り掛かる。
一度始まれば2時間以上は作業にかかりきり。特注品の注文が入れば、深夜まで仕事をすることもある。山前さんは「正直身体はきつい。でもこの道を選んだことを後悔したことはありません」と力強く語る。
製餡メーカーとしては、決して規模は大きくない同社。だからこそこだわるのが、顧客の要望に応えた「オーダーメード」な商品作りだ。小豆を加工し砂糖を加える前の「生餡」だけでも数十種類を用意。最近では得意先と共同で、商品開発に取り組む機会も多い。
小町通りを入ってすぐの場所にある甘味処「こまち茶屋」も、そんなお店の一つ。同店の野村雄治店長がリクエストしたのは「小豆の甘みと香りがしっかり感じられるあん」。すると山前さんはすぐに数種類の試作品を作って提案した。「中でも『つぶ感』がしっかりしていて、自然な甘みのあるものを選びました。おしるこやぜんざいに使っていますが、お客様にも好評です」と野村店長は話す。
「美味しさ世界にも」
多くの店の味を支えてきた同社だが、その名前が表に出ることはほとんどない。「うちはあくまで脇役。でも雑誌でうちの商品を使っているお菓子が紹介されたりすると、やっぱりうれしいですね」と笑う。
和菓子が中心だった「あん」は最近、用途が多様化。同社の顧客も洋菓子店やパン店など幅広くなっている。
「去年、フィンランド人と知り合いになり、あんの作り方を教えました。すると『すごく美味しい』と写真入りのLINEが来て海外の人にも支持されるのだと自信になりました。もっと質の高いものを作って、この鎌倉からあんの美味しさを世界にも伝えていきたい」と意気込んでいる。
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