警察庁によると今年7月から3カ月間の自殺者数は全国で5477人(速報値)となり、前年同期比で419人増加。神奈川県内でも同期間は316人で昨年より51人増えており、コロナ禍で生活環境の変化もある中、自殺予防の必要性が高まっている。精神科医で星槎大学大学院(事務局/さつきが丘)の内田千代子教授に自殺予防について聞いた。
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内田教授は、自殺した人の約9割は亡くなる前に何らかの精神疾患を抱えていると指摘。病院の診断を受けていないケースも多く、「本人は精神疾患にかかっているため視野が狭くなり、自殺以外に解決策がないと判断してしまう。そもそも『どうしたら死ねるか』と考えること自体が、うつ病の症状の1つ」と話す。このため友人や知り合いなど相談を受けた人や変化に気付いた周囲が適切な支援機関などにつなぐことが重要となる。
一方、相談を受けた人は「1人で抱え込まず支援機関や医療機関等の専門家につなぐことが鍵」という。
「変化気付いたら、専門家へ」周囲がゲートキーパーに
自殺防止で大きな役割を担うのが、「ゲートキーパー」。自殺の危険がある人が発するサインに気付き、声を掛けて話を聞き、必要な支援先につなぎ、見守ることができる人だ。「命の門番」として、誰もが意識して人と接することで自殺対策につながるとされる。内田教授によると、自殺につながるうつ病のサインは「何も興味が湧かない、好きなこともしない」など。また不眠、過眠、だるい、疲れやすいなど、身体の不調が出ることが多いという。
誰かに話を聞いてもらうだけでも楽になるというが、医療機関の受診も重要。自殺の危険性があるときは医師の判断により入院となるケースがあるが「自殺予防で効果が最もあるのは自殺手段へのアクセスを断つこと。とても危ないときは保護が必要です。その上で治療し、回復を目指していく」と話す。
青葉区役所によると2018年度時点で、区内では男女共に家族を持つ40代から50代で自殺で亡くなる人の割合が一定数を占めているという。内田教授は「家族であっても悩みを言えない人も多いが、実際は助けを求めている。特に男性は弱みを見せられない傾向がある。男女ともに元気がない、大切にしていたものを放り出すなど変化が見られることが多いので、家族や周囲が気付くことができれば」と話す。
特に今の時期は、芸能人の自殺に関する報道が相次いだことで「連鎖する危険がある」として周囲が注意してみてほしいと呼び掛ける。
コロナ禍も影響か
現在は新型コロナウイルスの影響が診療の場でも見られ「経済的不安からの自己肯定感の低下、自粛が長引いたことによる生活リズムの乱れ、親子関係の悪化等の相談がある」と内田教授。
これまでと同じ生活ができない今のような時期は「睡眠、食生活、運動等の生活リズムを崩さない心掛けが必要」と説明。人と接触する機会は制限されがちだが「幸せホルモンとして知られるオキシトシンは見つめ合ったり、電話の声だけでも分泌されて気持ちが落ち着くという研究もある。直接会えなくても人とつながっている感覚が大切」と話す。
また「長寿の人の特徴の一つとして、感謝される経験が沢山あると言われている。こうした状況の時こそ身近な家族などに感謝の気持ちを示してもらいたい」と語った。
電話・SNS相談も
横浜市では例年、9月を自殺対策強化月間として啓発活動等を実施。区でも広報等を通じてゲートキーパーの普及を図っている。例年は区内イベントで啓発活動等を実施しているが、今年は新型コロナウイルス感染拡大により開催できないのが実情だ。そのため、区担当者は「家庭や職場など、誰かがいつもと違う様子なら声を掛け、本人の気持ちを尊重し、批判をせずに耳を傾けて、相談機関につなげてほしい」と呼び掛けている。
悩みのある人の相談は区福祉保健センター【電話】045・978・2453(平日午前8時45分〜午後5時)、又は、こころの電話相談【電話】045・662・3522(平日午後5時〜9時30分/休日午前8時45分〜午後9時30分)、(福)横浜いのちの電話【電話】045・335・4343(午前8時~午後10時)。このほか県のLINE相談「いのちのほっとライン@かながわ」では「コロナ禍が続き、気分が沈む」等、心の健康に関してLINEで相談できる。匿名可。
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