宗教法人本法寺(小机町)の『奉納杓子』がこのほど、横浜市の新たな指定文化財に認定された。近代の民間信仰『オシャモジサマ』を伝えるもの。横浜市歴史博物館の学芸員、羽毛田智幸さんは「当時の文化、生活を示す貴重な資料。指定を機に多くの人に知ってもらいたい」と話している。
横浜市指定文化財は、市文化財保護審議会で「国・県指定文化財以外の文化財のうち横浜の歴史、文化または自然を理解する上で重要」と判断されるもの。今回は、宗教法人證菩提寺の『木造薬師如来立像』が有形文化財(彫刻)、本法寺と個人蔵(青葉区)の『奉納杓子』が有形民俗文化財に指定された。
奉納杓子とは、横浜市域の民間信仰の一つ『オシャモジサマ』で奉納されたしゃもじのこと。江戸時代頃に始まったとされる信仰で、小児が百日咳などの病を患った際に、オシャモジサマからしゃもじを借り、それでご飯を盛り付けると病が治ると信じられていた。借りたしゃもじは返却するが、その際に奉納杓子として新たにもう1本納めるのが習わし。寺社だけでなく道端の祠など、オシャモジサマはあちこちに設けられたという。
現存する貴重な資料
市内で現存していると確認されているのは17カ所。しかし信仰の衰退とともに、合祀や風雨の浸食で多くのしゃもじが失われ、100本以上残っていたのは両者のみ(個人蔵1145本、本法寺222本)だった。本法寺では、昭和初期から一般公開せず、御堂の片隅で御神体とともに丁重に保管されていたことがしゃもじの保全につながった。
また、しゃもじの表面には、健康への願いや効能への感謝など、当時の人々が書いたメッセージも鮮明に残る。羽毛田さんは「群を抜いた本数とその保存状態の良さが信仰があったことを裏付ける資料となり文化財指定につながった。大切に保管していただいてありがたい」と話す。
「医療技術も未発達だった当時は、オシャモジサマ信仰が人々の心の拠り所だったことがうかがい知れる」と当時の暮らしに想いを馳せる羽毛田さん。一方で、コロナ禍ではアマビエが流行したことに触れ、「困った時に神様に頼るのは、今も昔も変わらない」と語った。
12月から歴博で公開
文化財に指定された奉納杓子は、横浜市歴史博物館に寄贈され、今後は同館が大切に保管していく予定。また、12月4日から来年1月10日まで開催される「文化財展」では、一般公開される。羽毛田さんは「文化財を通じて昔の人々の生活や、現代技術の進歩を実感できる。多くの人に見てもらいたい」と話す。
開催時間、観覧料などについての問い合わせは、同館【電話】045・912・7777。
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