今、全国の書店員や本好き、デザイナーらの間で話題となっている本がある。その名も『美しい日本のくせ字』。ネガティブなイメージの強い「くせ字」にスポットを当て、その不思議な魅力や時代性をまとめたのが大町在住の井原奈津子さん(44)だ。お笑い芸人からアイドル、海外アーティストのほか、道ばたで拾った文字まで、25年以上にわたる収集活動の集大成となった。井原さんは「それぞれの良さがあるくせ字の面白さを多くの人に伝えたい」と話している。
芸術家・岡本太郎の「『美しい』は『きれい』とは全く違う」という言葉を引用し始まるこの本。
その言葉の通り、時代や国籍、場所を超えて井原さんが「これは」と心を動かされた個性的な「くせ字」が200ページにわたって紹介されている。その数は著名人だけで40人、誰が書いたのかわからないものも含めると100人以上にのぼるという。
5月末に出版
井原さんは逗子市出身。多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだ後、出版社で雑誌のデザインに携わった。その後フリーで活動し、2014年からは自宅などで習字教室を主宰している。
子どもの頃から字を書くことや他人の字を見ることが好きだったという井原さんは18歳の時にくせ字の収集を始めた。美大予備校の講師が書く「美しくはないけれど、惹かれる字」に出会い、「手元にとっておきたい」と思ったのがきっかけだったという。
その後、テレビや雑誌、さらには道端で拾ったメモ用紙まで、気になった文字をファイリングするように。
11年に初めて都内のカフェで「くせ字練習会」というワークショップを開催。これが話題となり、テレビにも出演した。その後、この番組を観た出版社などからのオファーを経て、膨大なファイルからの選定作業に苦労しつつも、5月26日に出版した。
ネットで話題に
インターネット上には「字に対する熱い想いが溢れている」「ここまでまとめたのはすごい」といった感想があがる。井原さんは「自分の字が嫌いだったけれど救われた気がした、と言ってくれる人もいて嬉しい」と笑顔で語る。
「字がきれいな人は仕事もできる」「字が下手な人は頭が悪い」といった固定観念には異を唱える井原さん。「字だけでその人の性格や能力を決めつけるのは難しいと思う」という。それぞれ個性があり、良さがあることを知ってほしいとも。「昔の写真を見るように、その人の字を見て懐かしく思うことがある。やっぱり字には人柄がにじみ出るもの。だから面白い」
「鎌倉でも集めたい」
12年から夫と2人で大町に暮らす。衣張山など思い立った時にハイキングできる環境が気に入っているという。井原さんは「やっと出版できて肩の荷が下りた感じ。多くの人に読んでいただいて、くせ字の面白さを知ってほしい。市内の寺社仏閣の扁額や石碑の字について調べてみたい」と目を輝かせた。
『美しい日本のくせ字』(パイ インターナショナル、税別1800円)はインターネットや市内の書店で販売中。また、トークイベントが8月6日(日)、長谷川書店ネスパ茅ヶ崎店(茅ヶ崎市元町1の1)で開催される。問い合わせは【電話】0467・88・0008同店へ。
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