「第29回神奈川工業技術開発大賞」で奨励賞を受賞した 荒木勝輝(かつき)さん 寺家町在住 68歳
道開くモノづくり
○…人の目には触れられない裏方役のパイプ。「でも、生活に欠かせない大動脈のような存在」。のどかな風景が残る寺家町の一角に工場を構え38年。農業の町、「困ったらいつでも」と創業当時はよく農機具の修理をした。「翌日お礼にどっさり野菜が置いてあって」。夫婦二人三脚で始めた町工場。四六時中明かりが灯る工場を心配し、「とにかく寝て」と畳一枚担ぎ、近所の人が訪ねてきたこともあった。「町や人とつながり、可能なことを地道に研究してきた結果」と今回の受賞を喜ぶ。
○…幼い頃のあだ名は”エジソン”。竹とんぼを作ったかと思えば「もっと高く」。空き缶と糸で竹とんぼ装置を作った。糸を引っ張ると竹とんぼはビュンと空高く舞った。5歳の頃、釘で作ったドライバーで目覚まし時計のからくりを2年間研究。噂を聞きつけ、近所から振り子時計の修理依頼がやってきた。「ありがとう」と手渡されたのはお米。「それが人生初めてのお給料」。温かい笑顔が印象的だ。
○…九州の島原出身。工学書籍を読みあさった青春時代。独学で培ったノウハウを生かし、川崎の会社に就職。作業効率改善の機械開発を担当した。「ある工場は売上3倍に。従業員から怒られるほど忙しくなって」。その後、パイプの加工開発と出合い独立。ランドマークタワーなど横浜界隈や都心には自社のパイプラインが走る。現在は海外でも使用されるニュートリノの実験用装置の製作にも携わる。「こんな小さな町工場が世界とつながっているかと思うと、励みになる」
○…自宅は工場に隣接、寝ても覚めても仕事の日々だ。研究に行き詰ると趣味の一眼レフを手に港へ。「ゆっくり旅でもしたい」と思いを乗せ、横浜港や東京で客船を撮り続けている。リフレッシュし、大好きな機械音のする工場に帰って思うことはただ一つ。「必要だと思うもの、自分の心に恥ずかしくないものを作り続ける」。今も昔も変わらない、モノづくりへのポリシーだ。
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