〈新連載〉さすらいヨコハマ【1】 篠田正浩の『乾いた花』 大衆文化評論家 指田 文夫
このコラムでは、横浜にまつわる映画や音楽、大衆文化に関係する歴史などを紹介していきたい。
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横浜が舞台の映画で有名なのは、黒澤明の『天国と地獄』だが、篠田正浩の『乾いた花』(1964年)も横浜が出てくる傑作だ。
「さきこま、さきこま、あとこま、あとこま」の台詞が流れる本物の博打場シーン、その後、東映、大映などのヤクザ映画で無数にあった「バッタ」から「手本引(てほんびき)き」を最初に見た瞬間だった。
横浜橋通商店街を霊柩車が行き、死の匂いを予感させる。主人公の池部良は、刑務所から戻り、黄金町辺りの花札賭博で、美少女・加賀まり子に会う。海岸教会での逢瀬、深夜の首都高での外国人とのスポーツ・カー競争、加賀の見合いを目撃するシルク・ホテルのロビー、らせん階段を昇った池部に、最上階の同伴席で刺殺される山茶花究の投げやりな表情。すべてがニヒルで倦怠感に満ちている。冷たく抒情的な武満徹の音楽、戸田重昌のリアルな美術、端正な小杉正雄の撮影。
しかし、「反社会的」とのことで未公開になる。怒った篠田は、原作者の石原慎太郎と試写会を開く。上映の途中、記者が一人、二人と出てゆく。その日、小津安二郎が亡くなったのだった。1963年12月12日のことである。
(文中敬称略)
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