高津物語 連載第八四二回 「大山詣り（三）」
落語『大山詣り』に登場する「米ヶ濱のお祖師様」とは、横須賀市深田台の日蓮宗龍本寺のこと。
日蓮と白猿にまつわる言い伝えのある御寺である。
鎌倉から房総半島入りするルートの一つが、船で房総半島西海岸の横須賀附近に上陸するルート。
『大山詣り』の一行も熊の長屋女房連へのつくり話で「出て来た序だから回ろうじゃねえか」「そうだそうだ」となり、伊吹屋という船宿から船を出そうとした所、船頭が「今日は大南風が吹いております。こういう時は、御止しになったが方が良うございます」って言うんだけども、「何があっても驚くんじゃねェから、兎に角船出しとくれ」って、皆が言うもんだから船頭が「そうですか、其れじゃあ出しましょう」てんで船を…マ出したんだよ、最初（はな）のうちはね、天気が良く波は穏やかだったが、向こうに嫌な雲がポツンと見えた。
「嫌だねこりゃ」と思っている内に、急に風が吹き出すと海鳴りがゴォーと聞こえて、船頭が「いけねえ、疾風だ」ってんで、船を漕ぎ返そうとした時は、もう手遅れだよ。船頭は艪（ろ）がおぺしょれ、弾みくらって海ン中へ落っこちまう…。
昨日迄今日迄も…同じ釜の飯を突っついて来た兄弟分が皆海に沈んじまって、俺一人がおめおめと帰れるもんじゃねェ（涙と共に）俺も一層の事海に身を投げて死んじまおうと思ったけれどおめいたちの事を考えたらよオ、誰がこれォ、帰るんだい？そう思った途端におれァ、仕様がねえ、俺が帰ろうてんで…「俺ァ、かかあに離縁をやって、高野の山入って友達の菩提を弔ってやろう思って、頭を丸めていたんだ」って、初めて手拭いを除（と）った。見栄っ張りの熊が頭を丸めたんだから、こりゃあ嘘じゃない、本当だてえと、先達の奥さんが急に泣出したのを、井戸に身を投げて死ぬ…生きてる甲斐がないの長屋中の大騒ぎ…。「お前にそれだけの料簡があるなら、お前のその翠の黒髪を根元からぷっつり切ってよ、えェ？頭丸めて尼さんになって、朝晩念仏をあげて菩提を弔ってたってご覧？」てんで、大山講行ったとこのかみさん連中をすっかり坊さんにして、てめぇ所のかみさんだけそのまんまにしといた。
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