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【Web限定記事】  川崎大空襲の記憶を語る 市内在住・萩坂登久子さん「今でも寝る前に蘇る」

社会

公開:2024年4月12日

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当時の様子を語る萩坂登久子さん=4月5日
当時の様子を語る萩坂登久子さん=4月5日

 昭和20(1945)年4月15日午後10時ごろ。200機余りの米軍のB29による爆撃が川崎市中心部と南武線沿いの工場集積地域を襲った。1110tもの焼夷弾と爆弾が投下され、市街地は壊滅的な被害を受けた。川崎大空襲と呼ばれ歴史に残るこの戦災から、まもなく79年が経とうとしている。当時12歳だった萩坂登久子さん(91)=川崎市多摩区在住=は「今でも寝る前に記憶が蘇る」と語る。

 萩坂さんは、現在の幸区南幸町で7人きょうだいの6番目として育った。幸町尋常小学校から分離した当時の南河原尋常小学校に1年から通った。6年の2学期、激化する太平洋戦争の戦火を逃れて3歳下の弟と多摩区長尾にある母の実家へ学童疎開したが、付き合いが浅かったため待遇は冷ややかで、通った稲田小でも仲間はずれにされた。見かねた若い女性教員が話を聞き、疎開する子どもの身の上を児童の親に説明してくれた。「ごめんねと言ってくれる子もいた。でも、親がそばにいるといないではすごく差別があった」

 長尾で卒業を迎えたが弟を置いて自分だけ親元へ戻るわけにいかない。親へ手紙を書くと「死なばもろともだ。2人で帰ってきなさい」との返答。南幸町の家は建物疎開で壊され、一家は幸区柳町に移り住んでいた。1945年3月末、弟と共に家に帰った。

昼間より明るい夜 

 家族の元へ戻ったのもつかの間。夜、就寝中にその時は来た。警戒警報なら割とすぐ解除されるが、その日は空襲警報が鳴りっぱなし。「これはいつもと違うね」。枕元に備えておいた防空頭巾をかぶり防空壕へ逃れると雨のように焼夷弾が降ってきた。このままでは防空壕も危ない。2つ上の姉と弟と「3人で手をつないで逃げろ」と父が言った。外に出ると辺りは炎に包まれ、暗いはずの空が昼間よりも明るかった。「一本松で会おう」。子どもが逃げるのを見届け父も手彫りの盆を一つ頭に乗せ逃げた。母と兄も避難した。

 地域の目印であり父と約束した一本松を目指し、尻手駅方向へ。川崎駅西口にある柳町からよその大人のあとを付いていった。唾液も出ないぐらい喉がひりつき呼吸が苦しかった。泣きながら途中の水田で休んでいると、横にいた家族の母親が持っていた氷砂糖を一粒ずつ3人の口の中に入れてくれた。「そのひとかけらで唾が出て生き返った」 

 米軍機は、逃げ回る人たちを狙い撃ちにした。「低空飛行で、狙いたい放題。操縦する米兵の顔がはっきりと見えた」。次から次へと飛んでくる戦闘機は外れ弾、無駄弾なく人々を撃ったという。燃え盛る炎の中で、萩坂さんも逃げた。綿でできた防空頭巾に火がつかないよう大人のまねをして田んぼの側溝の水で濡らしたが、たちまち乾いてしまった。何度も濡らしては乾いてを繰り返した。「まさに戦場。『何が銃後の守りだ』と思った」

家族との再会 

 たどり着いた一本松は遺体の山。並べられた亡骸を子ども3人で一体一体確認した。地域の消防団の男性が一緒に父の名を呼んで探してくれた。ほどなくして父と生きて会うことができた。その後、母や兄とも奇跡的に再会を果たした。

 家族は下小田中(現中原区)にあった父の実家に身を寄せた。そこで聞いた玉音放送は「祝詞のようで、何を言っているのかわからなかった」。だが、一緒にラジオを聞いていた周りの大人たちの中には、崩れ落ちていくような人もいた。

 終戦後、萩坂さんは演劇に夢中になり、そこで出会った夫と結婚して一男一女をもうけた。「体が弱かったから60歳まで生きられればと思っていたんだけれど」とつぶやく。「最近は寝る前に昔の記憶がバーッと蘇ってくる。去年病気をしてだいぶ弱くなった。体験したことを最後に残すことができれば」と話し、ほっと息をついた。

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