「いらっしゃいませ!」。市内の農家が持ち回りで自作の野菜を手売りする鎌倉市農協連即売所(通称レンバイ)に一際明るい声が響く。市内関谷の山森農場が運営するブース内で忙しく動き回るのは、藤木将さん(28)。レンバイの当番にあたっていた12月23日も、主婦や家族連れなど野菜を求める客が、次から次へと訪れる。「前にここで買った野菜、美味しかったよ」と声をかけられると、照れながらも「ありがとうございます」と満面の笑みで答える。
銀行員から農業へ
藤木さんは大学卒業後、大手銀行に入社し鎌倉支店で社会人生活をスタートさせた。「ゆくゆくは起業したい」と考えていたため、3年後に食品の卸売会社に転職した。
それから約1年後、「そろそろ独立を」と考え始めた矢先、銀行員時代から付き合っていた婚約者に別れを告げられる。「人生のどん底に突き落とされ、半ばヤケになった。こうなったらやりたいことを好きにやろう」と会社を辞め、いよいよ事業立ち上げの準備に本腰を入れ始めた。狙いを定めたのは、食品関係の事業。「新人の頃多くの人に良くしてもらった鎌倉で始めたい」と調べていた時、たまたま「鎌倉野菜物語」というホームページを目にする。
野菜作りの現場に興味を持った藤木さんは、すぐさまホームページの管理者に連絡を取り、関谷の農場を見学。「新規参入が難しい」「若い担い手が足りない」など現在の農業の問題点を聞き、「あるコミュニティの抱える問題を解決することが、ビジネスである」という言葉を思い出した。「課題が多いからこそ農業にはチャンスがある」と考え、関谷にある2つの農場で手伝いを始めた。
「ブランド確立したい」
「本当にやりたいなら研修生として雇うよ」。手伝いをしていた農場の一つを営む山森金雄さんから誘われたのは一昨年12月。100種類以上の野菜を育て、日々変化に富む畑仕事に、次第に夢中になっていた藤木さんに迷いはなかった。
「農家には企業のように定休日はないし、日の出から日没まで長時間働く。だけどそんなこと全く気にならないくらい楽しくて」と藤木さん。夏には採れたてのトマトを丸かじりし、冬になると焼き芋で休憩をとる。「今まで食べていたものの常識が覆されるくらいここの野菜は美味しい。自分もいずれ同じ味を作りたい」と目を細める。
最近では野菜の勉強も兼ねて、もともと趣味だった料理にも熱を入れている。「そんな事ばっかやっているから嫁さんが来ないんだよ、っておばあちゃん(金雄さんの母・きよ子さん)から嫌味を言われることもあるけれど、山森さん一家は本当に暖かく自分を受け入れてくれた。金雄さんは鎌倉のお父さん、という感じです」と笑う。
昨年夏には若手農家と「神奈川県7人の百姓」を結成。情報交換会や自慢の野菜を食べてもらうイベントの開催を企画している。「鎌倉野菜だから、ではなく『この農場だから』と選んでもらえるようにプロデュースしたい。可能性は無限にあると思う」と力強い眼差しで語った。
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