夜も明けきらぬ師走の朝5時30分。材木座海岸近くのもんざ丸 前田水産直営店では、漁に出るための準備が慌ただしく進められていた。男性2人とともに、テキパキと作業を進めていたのは桑原桃子さん(21)。鎌倉の海に出て3年目、「コモモ」の愛称で呼ばれている女性漁師だ。
「行こう」という船長の掛け声で氷を満杯に入れたクーラーボックスを積んだトラックは海岸に向け走り出した。寒さと静けさが身に染みる。「今朝は今年1番の寒さみたいですよ」。浜辺に立ち、沖合を見つめながら桑原さんは言った。
シラス漁船で経験積む
今や全国的な知名度を誇るようになった湘南のシラス。例年1月1日から3月10日まで禁漁期間が設けられており、12月は追い込みの時期だ。
もんざ丸は魚群探知機を使い鎌倉湾を進む。「お腹が減っちゃって」と波に揺れる船上で朝食のパンを食べ始める桑原さん。「1回やってみようか」という船長の一声で漁は始まった。
シラスの群れを見つけると、目印のブイを打ち、先に向かって段階的に目が細かくなる筒型の網に入るよう群れの動きに合わせて船を動かす。いつ、どこで網を出すかが船長の腕の見せ所だ。機械が網を引き上げるなか、桑原さんは目の粗い網に引っ掛かった魚を手際よく取り分けていく。シラスの網に差し掛かると引き揚げは手作業になった。シラスの重さに加え、網の目が細かいため水の抵抗も大きい。それでも桑原さんは男性漁師と変わらない作業を行う。
シラスは水揚げしたあとすぐに水洗いし、氷でしめる。その横で桑原さんは特製のタレが入ったビンに取れたてのシラスを入れ「沖漬け」を作っていた。この日は約2時間、5回ほど網を入れ、獲れたのはクーラーボックス4箱分、100キロ弱だった。「まあまあですね」と帰路につく途中、桑原さんは笑顔で話した。
師匠・モモさんとの出会い
桑原さんが漁師を志したのは中学生の頃。小さい頃から家の近所にあったもんざ丸の店に通ううちに、のちの「師匠」となる鎌倉漁協初の女性漁師、前田桃子さんの船に乗せてもらうようになった。「私も漁師になりたい」。中学卒業時に直談判したが、周囲に説得され県立海洋科学高校に進学。海や船舶の基礎知識を学んで帰ってきた。偶然にも2人は同じ名前。もともと「モモ」と呼ばれていた前田さんに対し、弟子入りした桑原さんはいつしか周りから「コモモ」と呼ばれるようになった。
1年目は師匠の「モモ丸」に乗り、刺し網など漁の基本を学んだ。2年目は自ら刺し網漁やタコ漁を行いつつ、もんざ丸のシラス船にも乗っている。「基礎は一通り学ぶことができた。来年は1人の漁師として勝負の年になると思う」と話す。
そんな桑原さんについて「気合・気配り・忍耐の三拍子そろったスーパーウーマン。どんどん成長している」と前田さん。桑原さんは「全部、人生の先輩でもあるモモさんから吸収したこと。もっと大きな漁師になりたい」と意気込む。海の上ではあくまでもライバルだという2人。「やっぱり漁は面白い」と話しながら、目線は海のほうを向いていた。
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