かつて由比ガ浜にあり、近代鎌倉の発展の礎ともいわれる「鎌倉海濱院ホテル」の模型が9月16日(水)まで、市中央図書館1階ロビーで展示されている。制作したのは市内雪ノ下の柴田信さん。柴田さんは定年退職後、建築模型の制作に情熱を燃やし、市内の洋館など40以上の作品を手掛けた。「海濱院ホテル」は自身の集大成と位置付けていたが、完成を目前にした今年1月に急逝。その後知人や家族の尽力で完成し、今回の展示に至った。
大手飲料メーカーの営業マンとして忙しい日々を送っていた柴田さんが、建築模型の制作を始めたのは定年退職後だった。「子どもの頃から手先が器用で建築に興味があるとは聞いていましたが、退職した翌日に通信教育を受講し始めたのにはびっくりしました」と妻の孝子さん(68)は話す。
講座修了後は当時住んでいた都内を散策し、気に入った家があると訪問。家主に掛け合って設計図を借りて模型を作り、そのお礼にプレゼントするという「練習」を続けた。友人の新築祝いに制作することもあったという。
孝子さんの実家がある鎌倉へ引っ越してきたのは7年前。瀟洒な洋館はもともと好きなモチーフで、鎌倉に来てからは「3大洋館(=鎌倉文学館・古我邸・旧華頂宮邸)を作るのが目標」とそれまで以上に熱を入れていたという。
予定が入っている日を除き、朝7時から夕方まで自室にこもって制作。その際、大好きなボサノヴァやジャズを必ずかけた。ひとつの模型を作り上げるのに、2〜3カ月を要していたという。「使うパーツは0・05ミリの誤差も許されないと言っていて、それをすべて寸法通りに用意してから組み立てていました」と孝子さんは振り返る。
「幻のホテル」再現
同ホテルを制作するきっかけとなったのは、鎌倉同人会が創立100周年記念事業の一環で、鎌倉海浜公園由比ガ浜地区の一画に石碑を設置したことをニュースで知ったことだった。
同ホテルに興味を持った柴田さんは昨年4月、制作を開始。写真やパンフレットなど資料しか手がかりがないため、以前から知り合いだった鎌倉市中央図書館近代史資料室の平田恵美さんのもとへ通った。平田さんは明治末期に行われた大改築の際の図面を京都大学から取り寄せたほか、様々なアドバイスを送りサポート。「屋根はどんな色だったかなど、熱心に聞きに来てくれました」と振り返る。
「これまでの集大成」と制作に打ち込んでいた柴田さんだが、完成を目前にした今年1月、急逝する。73歳だった。
しかし「かつてのホテルの姿を立体的に伝える貴重な模型。このまま眠らせてしまうのはあまりにも惜しい」と知人で建築家の大沢匠さんが庭などの未完成部分を手掛け、平田さんの尽力もあり7月31日から同館で展示されている。
孝子さんは「夫が情熱を傾けた模型をきっかけに、改めて鎌倉に残る貴重な建築物の魅力に目を向けてもらえれば」と話している。
同館は今後、柴田さんが制作した「旧華頂宮邸」や「鎌倉文学館」などの作品も展示する予定。
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