市立戸塚高等学校定時制(長田正剛校長代理)で3月3日、第64回卒業式が挙行された。10代を中心とした84人の卒業生のなかには、高校生になる夢を約半世紀ぶりに叶え、晴れてこの日を迎えた上品濃在住の田中敏雄さん(66)とマサ子さん(65)夫妻の姿もあった。
川崎市出身の敏雄さんは10歳で父親と死別。小学生のころから新聞配達をして家計を助け、中学卒業後は迷わず就職の道を選んだ。一方のマサ子さんは山形県で生まれ、高校進学者はクラスの半数という環境のなか、自身も親に負担をかけたくないと集団就職で上京した。
結婚後も還暦を過ぎるまで続いた共働きの生活。そんななか、マサ子さんは「漢字を読めても書けない。いつか学校に通いたい」と、勉学へのあこがれを持ち続けており、敏雄さんの定年退職を機に二人そろって高校進学を決めた。
入学当初、子どものいない夫妻にとっての不安は若者との付き合い方。しかし、「困ったことがあると出席番号で1つ前の男の子が助けてくれた」と、マサ子さんの高校生活は順調な滑り出し。
一方、妻の夢を叶えたいとの思いで入学を決めた敏雄さんは、当初「授業中も『腹減った』と思ったことをすぐ口にする若者の様子にとまどった」。それでも徐々に環境に馴染み、学ぶ楽しさに「もっと早く入学すれば良かった」と充実した日々を送った。また「周りは働いて学校に来るのに自分だけ申し訳ない」と、パートの仕事を探し働き始めた。
マサ子さんの好きな科目は歴史。「ヨーロッパを旅行しても教会が多い理由が実感できたし、ニュースで習った単語が出てくると嬉しくて」。敏雄さんは「クイズ感覚」と試験が好きで、試験前には仮想問題を作り二人で勉強したという。
「見た目はつっぱっていても内面は良い子ばかり」という級友、「クラスをまとめて盛り上げる力がすごい」と尊敬する先生たち。たくさんの楽しい思い出ができた4年間に、卒業に対する思いは寂しさしかない。敏雄さんは「落第してもう一度4年生をやろうかと真剣に考えたほど」という。また、マサ子さんは今後、放送大学に進学してさらに歴史を学ぶ予定だという。
長田校長代理は、「夫妻の生き様に他の生徒も良い影響を受けたのでは」。また、「何歳でも意欲さえあれば学ぶのに遅いことはない。私自身も良い勉強になりました」と話していた。
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