新春市長インタビュー 「ごみ問題は最優先課題」 戸別・有料化は分離導入も
タウンニュース鎌倉編集室では、2014年の年頭にあたり恒例の市長インタビューを行った。このなかで松尾崇市長は2期目の最優先課題としてごみ処理問題をあげ、市長選の争点にもなった戸別収集・有料化については、別々の導入も検討していることを明らかにした。また「不記載」勧告を受けた世界遺産登録再挑戦への取り組みや、「ロードプライシング」の導入による渋滞対策、鎌倉独自の地域活性化策などについて語った。(聞き手は本紙鎌倉編集室編集長、井方照雄)
――市長にとって2013年は1期目の総括であり、2期目のスタートの年となりました。1期目の取り組みと2期目の課題についてお聞かせ下さい。
「1期目では『次世代に負担を先送りにしない責任ある市政の実現』を基本的な考えに置いて、これまで先送りされてきた課題、例えば開発にかかわる事業者とのトラブルやごみ処理の課題、公共施設の老朽化、少子高齢化に対応するまちづくりなどに取り組んできました。そして2期目の最優先課題はごみ処理問題の解決です。将来にわたる環境負荷を低減させて持続可能なまちをつくっていく、という大きなコンセプトの下、2016年3月までにごみを3万トン以下にしていきます」
――ごみ処理の問題では戸別収集・有料化の導入の是非が、昨年10月の市長選でも大きな争点となりました。改めて導入を目指す理由を教えて下さい。
「鎌倉はごみ処理費用が県平均の1・3倍かかっていることに加え、家庭から出るごみそのものも県平均より多いということから、全体として出すごみを減らしていく、という大きな目標があります。そのための大きな柱が2つあります。
一つは事業系の燃やすごみの削減で、これは分別の徹底とごみ処理手数料の値上げで実現していきます。
家庭系ごみについては、組成分析しますと燃やすごみの中に、まだ25%も分別できるものが混ざっています。もちろん削減に取り組んで下さっている人も沢山いるのですが、そうでない人たちもまだまだ多い。そのなかでごみを出す全ての人に、高い意識で取り組んでいただく仕組みとして、有料化があります。全国で6割の自治体が実施していて実際に削減効果が出ていますので、ご理解をいただいて実施をしていきたいと考えています」
「ロードプライシング」導入に着手野村総研跡地にIT企業を誘致へ
――12月議会には戸別収集・有料化の導入に必要な条例改正案を提出しませんでした。来年7月の導入に変更はありませんか。
「これまでの説明会やパブリックコメント、選挙を挟むなかで市の考え方、私の考え方が正しく伝わっていないと感じることが多くありました。さらに市民の皆さんに説明をするために、12月議会には議案の提出を見送りました。
これまで戸別収集と有料化をセットで7月に始めたい、ということで進めてきましたけれども、切り離して時期を変更するということも含めて検討しています。
いずれにしても早い時期の導入を目指していかなくてはなりませんので、多少の前後はあっても、スタートできるように取り組んでいきます」
――戸別収集と有料化を別々に導入する可能性もあるということですか。
「導入の時期をずらすのも一つの検討材料です」
――地域ごとに収集方法を選択できる、という可能性もあるのでしょうか。
「パブリックコメントですとか、説明会のお話を聞くと、戸別収集の方に反対のご意見や懸念の声が沢山ありました。やみくもに選択制を導入するとか、そういうことではありませんが、どうすればご理解をいただけるか、というところは慎重に検討していきたいと思っています」
――戸別収集に異論が多いということですが、理解をされていないと感じるのはどのような点ですか。
「焼却炉が一つなくなるから、ごみを減らさなくてはいけない、という風に説明しますと、『行政の責任でそうなっているのだから、市民に負担を押し付けるのはおかしい』と考える人は多くいらっしゃいます。そもそも、次世代のため、未来のために環境負荷を出来る限り減らしていきたい、そのためには、『ごみ』そのものを減らしていく必要があるということを、今後も私自身も発信し、行政としても説明会など出来る限りのことをやって説明を尽くしていきたいと考えています」
――新しい焼却施設の整備が急務です。いつまでに、どういう考え方で整備しますか。
「現在新しく建設される焼却施設は、発電も含めたエネルギー回収が標準的になってきています。鎌倉でもそういう付加価値をつけながら、安定的に処理できる施設を作っていきます。時期については場所の選定から住民への説明、環境アセス、設計建設工事などが必要ですから、10年程度はかかります。それが1年でも2年でも前倒しできるように、出来る限りの知恵と工夫を使っていきたいと思っています」
――エネルギーのリサイクルを行う施設では、高効率な焼却が必要となるため、今まで取り組んできた減量やリサイクルと逆行するのでは、という声もあります。
「それは誤解があって、何でも燃やしてエネルギー回収しようということではありません。これまで鎌倉市が取り組んできた、ごみを減らしていくという基本姿勢を保ちます。ただ、これからはリサイクルすればいいというものではなく、リデュース、リユースが大事だという段階に入ってきています。その考え方の延長線上にある焼却施設になりますから、決してなんでもかんでも燃やすことを想定しているものではない、ということはご理解をいただきたいと思います」
世界遺産「再挑戦」
――ユネスコの諮問機関イコモスによる世界遺産「不記載」勧告は市民にとって衝撃でした。国・県・市として、登録にもう一度挑戦するという方針が出されていますが、登録を目指す理由と今後の取り組みを教えて下さい。
「私は、この鎌倉を、住民の皆さんが心から誇りに思えるまちにしたいと考えています。鎌倉の現状として、交通渋滞の解消や、緑地・景観の保全、文化財の保存管理など、様々な課題があります。こうした課題について、解決に向けて目に見える形で取り組んでいくことによって、結果的にその先に世界遺産登録があると私としては考えています」
――ガイダンス施設の活
用方法についてはどのようになっていますか。
「鎌倉に住む市民、特に子どもたちが鎌倉の歴史を学び、自分の言葉で語れる、ということが大事だと思っていますので、それが実現できる施設にしていきたいと思っています。『(仮称)鎌倉歴史文化交流センター』として、2015年度中の開設を目指しています」
――緑地・景観の保全と開発による活力のバランスをどうとっていきますか。
「都市マスタープランや、緑の基本計画などの方向性を引き続き目指していくことになりますが、以前には考えられないような土地利用が行われるなど、時代の変化を感じています。市街化調整区域における開発がその一つで、大きな敷地から10宅地、20宅地の開発ができてしまっているという現実は、止めていかなくてはいけないと思っていまして、都市計画制度の更なる活用など、ルール作りが必要だと思っています。また風致地区条例の制定に取り組んでいますが、自動販売機の色を規制するなど、まち全体としてより良い景観、環境を守っていく取り組みを進めたいと思っています」
――渋滞対策は。
「『ロードプライシング』
の導入実現に取り組みたいと考えています。今年は課題を整理して、今任期中には社会実験を実施し、少なくとも実現の道筋はつけたいと考えています」
――導入に当たっての課題は。
「市民や事業者の皆さんのご理解をいただく、というところになります。12年ほど前にも市が取り組もうとしましたが、その時には反対運動などもありいったん検討を止めてしまいました。当時、反対意見のなかには、市民も市内市外に出るたびに(多額の)お金を取られるのではないかという誤解もありました。導入にあたってはどのくらい市民にご負担いただくかということもご理解いただきながら進めていきます。観光客が減って商業的にマイナスじゃないか、という声もありますが、私は新たに得た収入で鎌倉市民や鎌倉に来たお客様が快適に過ごしてもらえる空間を創出することが、よりまちの活性化につながっていくと思っています。そのあたりも効果として事業者の皆さんにご理解をいただくということが必要になってくると思います」
地域活性化策
――鎌倉が街として元気を失わないための施策は。
「鎌倉に若い人たちを呼び込むことがポイントになると思っています。その象徴として、野村総研跡地にIT企業をはじめとするクリエイティブ産業を誘致していきます。ITや文化芸術の分野は若い人たちの関心が高いため、それをまちづくりにも据えて取り組んでいきたい、と考えています」
――鎌倉のセールスポイントは。
「海があり山があり自然環境が豊かなまちに住んで、仕事もしてかつ遊びにも行く、という新しいライフスタイルが実現できてより心が豊かになれる場所だということが、鎌倉にとっては大きなアピールポイントになると思っています」
――企業や新住民への補助も検討するのですか。
「法人税の減免や、住宅の補助は現時点では考えていません」
――ほかに地域活性化の取り組みは。
「実際に市として進めているのがITを活用した寄付の募集や『かまくらさん』という市民の人たちが鎌倉の情報発信をしていく仕組み、お寺や公園で鎌倉らしい結婚式を挙げてもらう『鎌倉ウエディング』などがあります。今後は金婚式や銀婚式にも展開を広げていきたいと思っていまして、家族、親戚一同が鎌倉で顔を合わせてきずなを深める、そんな場を多く提供できたら良いなと思っています」
「共生」のまちづくりを目ざす
――2014年のキャッチフレーズを書いていただきました。「共生」とした理由は。
「鎌倉のまちはこれから大きく一つにまとまっていくことが必要だと思っています。それは多様な人たちがこの鎌倉に住み、その違いを認め合いながら互いがより長所を伸ばしあっていけるような、そんなまちを作りたいという信念のもとに、今年をスタートしたいと思ってこの言葉を選びました」
――昨年の明るい話題として東京五輪の開催決定があると思います。五輪が開催される時、ご自分は何をしていると思いますか。
「少なくとも鎌倉のまちのためになんらかの仕事をしているだろうと思います。それが市長なのかあるいはそうでない立場なのかわかりませんが、オリンピックの年には世界中の人が鎌倉に来ることが予想されますから、鎌倉の魅力を知ってもらえる仕事に携わっていたら、嬉しいです」
――市長自身の「ライバル」は。
「父です。父の存在が政治の世界に入るきっかけとなりましたし、大きな目標とする人です。実は市議会議員選挙に出馬を決めた時には『絶対父のようになりたくない』と思ったのですが、昔の父を知る方の話を聞いたり、自分自身が議員として活動している中で、いかに父が、一人ひとりの声に耳を傾けて誠実に歩んできたのかということがよくわかりました。私自身もそのような政治を目指したいと思っています」
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