西鎌倉の和菓子店「茶の子」の松野友美さん(26)がこのほど、全国和菓子協会が主催する「選・和菓子職」の優秀和菓子職に認定された。この春、職人としての道を歩みだしたばかりの松野さんだが、業界で最高水準の技術を持つ職人としての称号を手にした。
「選・和菓子職」は優れた技術を公正に評価することで、職人の地位向上や技術の伝承を図ろうと全国和菓子協会が主催しているもの。そのなかの「優秀和菓子職」の最終審査は8月28日、都内で行われた。
実技審査はその場で出されたテーマに沿った5種類の上生菓子を3個ずつ、規定の1時間45分以内に作るというもの。菓子の形や味、色彩はもちろんのこと、作業の手順や態度まで厳しく審査される。
「とにかく緊張した」と振り返る松野さんだが、「色合いなどは、練習でもここまで出せたことがない、と思うぐらいうまくいった」と会心の出来映えで、業界が認める一流職人の仲間入りを果たした。
一度は就職も職人に
松野さんは西鎌倉で和菓子店「茶の子」を営む両親のもと2人姉妹の次女として生まれ育った。同店は1917(大正6)年に横浜で創業し、26年前に鎌倉に移転。もうすぐ100年目の節目を迎える老舗だ。
「4代目」に当たる松野さんだが、「店を継ぐつもりは全くなかった」という。「幼い頃から父や母が毎日朝から晩まで働く姿を見ていて、『やりたくない』というより『自分には務まらない』と思っていました」と振り返る。
そんな気持ちが変化するのは、大学卒業を前に就職活動を始めてから。「私は何がしたいのだろうと考えた時、自分で作ったものを提供してお客さんを笑顔にする、両親の仕事が素晴らしいものだと改めて思うようになりました」。
しかしこの時はその思いを胸にしまったまま、大手雑貨店チェーンに就職。会社では出店の準備や販促を担当した。海外向けにホームページを開設した際、試しに上生菓子の写真を掲載すると、「キュート」など海外から様々な反応があった。「やり方次第で、和菓子はもっと面白くなる」。抱えた思いをもう隠すことはできなかった。
1年で会社を退職、昼間は銀座の老舗和菓子店でアルバイトをしながら、製菓学校の夜間部で2年間学んだ。今年3月に卒業、春から実家の店で働き始めた。
追い続ける父の背
「和菓子の道に進みたい」。思いを打ち明けた当初、父・邦男さん(65)は反対したという。「『お前には出来っこない』『いや出来る』そんなやりとりを何度も続けました」と松野さん。しかし真摯に仕事と向かい合う態度に、少しずつその評価も変わっていった。今では邦男さんも「技術はしっかりしてきた。従来の枠にとらわれない、新しいお菓子を作ってほしい」とエールを贈る。
「実は審査会で作った上生菓子は全てお店で出しているものと同じ。父がこつこつと積み上げて来た経験や技術が評価してもらったのだと思うと嬉しかったですね」。もちろん技術だけでなく、天候や気温に合わせて作る量を増減させるなど、経営面でも学ぶことは数知れない。同業者として近づいたからこそ、父の背中はこれまで以上に大きく感じているようだ。
「魅力、多くの人に」
現在は毎朝5時に起きて仕込み、製造の日々だ。「一日中立ちっぱなしですし、休憩もなかなか取れない。やっぱり大変ですね」と苦笑するが、その表情には充実感が漂う。
「優秀和菓子職」に認定されたことにより、今後は、海外での製作実演や外国の要人が来日した際に和菓子を振る舞うなどの機会が増えそうだ。「四季の情景を表現できる繊細さなど、和菓子の魅力を多くの人に伝えられたら」。技術と感性を備えた本物の職人に―。その歩みはまだ始まったばかりだ。
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