サイパン島での戦争体験記を出版した 栗原 茂夫さん 高田西在住 77歳
若い世代へ戦争伝える
○…太平洋戦争中の1944年、大きな戦禍を被ったサイパン島。同島で生まれ育った自らの目で見た戦争体験を、通っていたパソコン教室の講座をきっかけにインターネット上で公開。反響を呼んだこともあり、このほど「少年の戦争体験」としてまとめた。体験を語ろうと思った発端は、母が亡くなる直前に生涯を綴った手記を読んだことによる。ページの最後に「あとは茂夫が」と、執筆の続きを促す言葉があり、引き継ぐことになった。「本になるとは思ってもいませんでした。周囲の方の協力で出版できました」と感謝をこめる。
○…1930年代、両親は開拓移民としてサイパン島へ。戦争の状況が悪化し、氏が9歳で空襲が始まると、難を逃れるため洞窟に身を寄せた。その際、食料調達へ出かけた父親を失った。その後、一家は米兵に連行され、抑留。飢えと渇きの中、栄養失調で幼い弟2人も失った。手記にはこうした極限の状況が克明に書かれている。「日本へ戻る時、6人家族は3人になっていました。それでも、私はまだ地獄を見たわけではないんです。もっと辛い経験をした人はたくさんいる。戦争とはそういうものなんでしょう」
○…戦後の生活も楽ではなかった。教師になるため大学に通いながら働き、勉強は二の次だった。「大人になってからも戦時中の夢をよく見ました」。小中学生を中心に体験を伝えるようになり、自然と悪夢から解放されたという。「戦争の話をする時、子どもは家族を失うことに一番反応する。幸せが奪われるのを、身に置き換えるからでしょう」
○…文章の公開後、感想が届くほか、出版の際に受けた新聞の取材記事を見た読者との交流もあった。現在、国内の状況が変わり様々な動きが起こりつつある中、若い世代を気がかりに思う。「判断は人の自由。だが、判断を下せるだけの事実を知り、知識を得てほしい」。これからも戦争の体験を伝える活動は続く。
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