湘南鎌倉総合病院で絵画展「元気に感謝」を開催している 小川 倉一さん 七里ガ浜在住 96歳
水彩画で刻む鎌倉の記憶
○…「素晴らしい鎌倉の景色をずっと記憶に残しておきたくてね」と穏やかな表情で自身の作品を見つめる。25日まで湘南鎌倉総合病院で作品展を開催している。心臓病を患い、同病院で治療した縁で同じように病を乗り越えた画家仲間2人と企画した。「健康で絵を描くことが出来る、ということは本当にありがたいこと。馴染み深い鎌倉の景色を飾ることで、他の患者さんの癒しとなれば」と目じりにしわをよせる。
○…埼玉県出身。幼いころから絵を描くことが好きで、師範学校では絵画を専攻し、水彩画に没頭した。小学校の教員になってからも風景を描き続け、上野美術館の展覧会で3回入選。満州に渡った後も絵をやめることはなかった。「奉天城とか、中国の風景が珍しくてとにかく描きまくった。個展も開いてね」と振り返る。終戦を機に日本に引き上げた後、結婚。妻の父親が新聞記者をしていた縁もあり、読売新聞の記者としてペンを振るった。
○…夫婦で鎌倉を旅行した際、「歴史と自然が寄り添い、どこでも絵になる」とほれ込み、42歳で鎌倉に移住した。自分の目で見たものだけを描く「現場主義」を徹底し、鶴岡八幡宮の大イチョウや稲村ガ崎、広町緑地など足の向くままに景色を描き続けた。モチーフを決めると、柔らかく優しい鎌倉の表情を水彩でキャンバスに刻む。「絵心は直感。理屈抜きで感じられる空気が人との出会いにもつながった」と画家仲間に温かい眼差しを向ける。
○…今まで描いてきた鎌倉の風景画は2千点以上。「景色はどうしても変わっていくから、原風景を後世に残したい。子どもたちに地域の四季を知って欲しい」との思いから、自身の画集「春秋鎌倉」を昨年末、市立小中学校と図書館に1千冊寄贈した。「次に行くとしたら緑地がいいな。台峯に広町の森、まだ描きたいところはいっぱいあるんだよ」と創作への熱い思いは尽きることを知らない。