原文にこだわり『源氏物語』の魅力を伝え続ける 田中 順子さん 岡本在住 74歳
「古語で読む感動知って」
○…千年の時を越え、今なお多くの人を魅了する『源氏物語』。原文からその魅力に迫り続けている。県内外での勉強会や講演、執筆など精力的に活動しており、19日には鎌倉芸術館で、講演会を開く(申し込みは終了)。「古語ですから簡単ではありません。でも紫式部が書いた素晴らしい原文には、日本人なら誰しもが感じる何かがある。それを少しでも知ってもらえたら」と微笑む。
○…東京都出身。大学卒業後は、鎌倉市内や都内の小中学校、定時制高校で国語教諭として働いた。源氏物語との出会いは40代に入ってから。大学時代の恩師が主宰する勉強会に参加したことがきっかけだ。「『いづれの御時にか―』で始まる一文を読んだその瞬間、壮大な世界が頭のなかにイメージとして立ち上るのを感じました」。その後はとりつかれたように原文を読み、研究書を漁った。
○…しかし自身が受けた感動とは裏腹に「性愛や光源氏の女性遍歴だけが取り上げられている」ことに違和感を覚えるようになった。やがて「現代語訳やあらすじでストーリーを追っても、そこに描かれた登場人物たちの心、物語の奥深さは伝わらない」と確信。1996年に友人との共著で『イメージで読む源氏物語桐壷』を出版したのを皮切りに、原文で読むための手引書をいくつも著してきた。
○…鎌倉に住むようになったのは結婚後の1966年。教師として働きながら2人の息子を育て、研究にも没頭した。とは言え「象牙の塔」に引きこもるタイプではない。映画やクラシック音楽を愛し、鎌倉交響楽団では最近までビオラ奏者として活躍。お酒も大好きだ。「人生観まで変わってしまった。本当に大変なものに出会っちゃったわ」。源氏物語を語る口調は本気とも冗談ともつかないが「あと4冊は書く責任があるの」と笑う。それには最低でも10年は必要。世紀を超えた紫式部との対話は、生涯かけて続くに違いない。