初の展覧会を開催中の鎌倉彫資料館の館長を務める 柏木 豊司さん 逗子市在住 62歳
「鎌倉彫の奥深さ感じて」
○…鎌倉彫資料館では12月17日まで、特別展「鎌倉彫の仏具」を開催している。「阿弥陀位牌図鉦架」(鎌倉国宝館蔵)や「屈輪文大香合」(円覚寺蔵)など、実際に仏教行事で使用されてきた作品を展示しており、同館にとって外部のコレクションを扱う初の展覧会となっている。昨年3月にリニューアルし展示設備が整ったことで、こうした企画が実現できたという。「鎌倉彫の奥深さに改めて驚いています。集まった貴重な仏具を多くの人に見てもらう機会になれば」と館長として意気込みを語る。
○…横浜市出身。元々手先が器用で工作が得意だったことから、高校を卒業すると当時開校したばかりの鎌倉彫高等訓練校に1期生として入学した。卒業後は長谷にある白日堂に就職し職人仲間と切磋琢磨する日々を送った。12年後、自身の工房を構え独立した。
○…「請け負った仕事をきちんとこなす」がモットー。昔の制作物はほとんど手元に残っていないというが、鎌倉芸術館開館時に寄贈した雲をテーマにした幅2mのパネルなど、まちの中に職人として歩んできた軌跡は刻まれている。15年ほど前に所属する鎌倉彫協同組合の理事に就任。3年前に同組合が運営する資料館の館長に就いた。「使うほどに風合いが変化し長く使えるのが鎌倉彫の魅力。もっと若い人にも興味をもってもらいたい」と最近は資料館での子ども向け教室に力を入れているという。
○…資料館1階に併設されているカフェで使用している食器は、組合の職人が手がけたもの。「彫り進めてデザインが形になる過程が好き。自分の時間が漆塗りの下に込められている感じが温かい」と愛おしそうに茶器に手を添える。約40年前に結婚し息子をもうけ「安定した会社員に憧れたこともあった」が、「年齢を重ねるにつれ、昔から続く伝統と情熱の最先端にいる、という感慨が強くなった。職人を続けられて幸せです」と微笑んだ。