鎌倉文学館のバラ園の維持管理を16年にわたって担当する 荒 省三さん 長谷在住 81歳
第2の人生、バラ色の日々
○…鎌倉文学館のバラ園で維持管理をして16年。「春はコロナ禍で『無観客試合の虚しさ』を感じた。誰にも見てもらえないまま咲いた花を、秋のために切らないといけなかったから」。人間界の喧騒をよそに、バラは今秋も美しく咲き、来館者を楽しませている。「ようやくという感じだね」と笑う。
○…「あんた、バラ好きかい」。退職後、シルバー人材センターに登録して間もなく、後継者を探していたバラ園の担当にと声がかかった。水力発電所の現場監督として全国を飛び回っていた現役時代から、各地で気に入った苗木があれば買って帰るほど、植物は好きだった。「近所だし自分でよければ」と引き受けたものの、繊細なバラの維持管理は難しく、「勉強の日々」が始まった。
○…1年半で前任者は引退。その後は1人で剪定をし、花弁や葉を片付け、除草などの仕事を担ってきた。知識と技術を高めようと、藤沢バラ会に入会し、日本大学の農場での実践などで経験も積んだ。今では、妻と暮らす自宅には100鉢のバラが並ぶ。「ようこそ鎌倉文学館バラ園へ」と題したウェブサイトを立ち上げ、日々の様子や育て方を紹介するなど、すっかりバラに魅了された毎日を送る。
○…維持管理の傍ら、夢見てきたのが新たな品種を生み出すこと。目指すのは、尊敬する鎌倉の育種家・大月啓仲さんの「鎌倉」を母体とした、黄色の大きな花をつける品種。「名前も『ビッグムーン』と決めてある。和訳すると大きな月。大月さんに捧げるバラを作りたくて」。一度は開花に成功したものの、翌年に枯れてしまい、また振り出しに。「以来、失敗続き。バラって難しい。それが面白いんだけどね」。そう話す表情は愛おしさにあふれていた。