厚労省によれば、生涯でがんになる可能性は「男性の2人に1人、女性の3人に1人」とされており、今やがんとともに生きていく時代ともいえる。そんな中、毎月1回、総合福祉会館やビナレッジを会場に「がん哲学外来 えびなメディカルカフェ」を主催し、診断をうけた人や家族の心に寄り添い続けている夫婦がいる。
「私たちは居場所を提供しているだけで主役はみなさん。本音を吐き出したり、同じ境遇の仲間がいると知ることで心強くなって少しでも気持ちが楽になってくれれば」
そう語るのは、柏ケ谷の湘陽かしわ台病院の現役医師・内山喜一郎さんと、市内の地域包括支援センターで相談員として活動する看護師の倫子夫人だ。当事者とその家族の交流の場であるカフェは、この5年ですでに40回を超えた。「医療者という立場以外でも、やれることがあるのではないかと思って。カフェは自分たちが好きでやっていることです」と微笑む。
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カフェ会場のテーブルには持ち寄った飲み物や菓子が広げられ、和気あいあいとした雰囲気の中、7〜10人の参加者がおしゃべりに花を咲かせている。退出入は自由で、開会のあいさつもない。時折、ぽつりぽつりと出てくる抗がん剤の副作用や治療のつらさなどの話題が無ければ、がん患者の集まりには見えないだろう。「病気や治療について話す必要はありません。話したくなったら、話せば良いんです」
医療の壁を越えて
内山夫妻の活動は、2008年に順天堂大学医学部教授の樋野興夫医師が始めた「がん哲学外来」がベースにある。この試みはがんを通じて人生や命の意味を考える「カフェ」として全国で広がりを見せてきた。
内山医師もその趣旨に共感し、15年8月、当時院長を務めていた海老名総合病院を拠点にカフェを主催。その後は会場を総合福祉会館やビナレッジへ。「病院内だと、どうしても医師と患者という関係を切り離しにくいですから。これはあくまで個人の活動で私の患者会ではないので、医療相談に乗ることはありません。私たちがやっているのは”偉大なるお節介”です」と笑う。
最初はマスクで顔を隠していた人も、思いを語り、参加者と打ち解けていくうちに頬や顔色が明るみ、表情がゆるんでいく。それの様子を見て夫妻は「良い時間が過ごせた」と安堵するという。
亡き妻の思いを継ぎ
綾瀬市から毎回欠かさず参加している70代の男性は、昨年4月に妻をがんで亡くした。「妻からは『えびカフェ』への参加と孫の面倒を託された。いつも手土産に持ってきていた妻の故郷の北海道玉ねぎスープと、趣味のお花を必ず用意して参加します」。帰宅後には仏壇に手を合わせ「今日も行ってきたよ」と報告もすることが習慣だ。
「正直、ひとりじゃ持ち堪えられない。ここには気持ちを分かってくれる仲間がいて先生の顔を見るとホッとします」と男性はスープを見つめながら微笑む。
「医療のすき間に光を当てたい」と内山夫妻。今後も2人で”言葉の処方箋”を届け続ける。
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