春の叙勲で旭日小綬章を受章した作家 角野 栄子さん 由比ガ浜在住 79歳
物語は人生輝かせる「魔法」
○…春の叙勲で、文化、スポーツなどの分野で顕著な功績のあった人に贈られる旭日小綬章を受章した。デビューから40年以上、代表作「魔女の宅急便」をはじめ多彩な著作にファンは多く「おばあちゃん、お母さん、お孫さんと三代に渡って読んでくれるお家もあるみたい。長く楽しみにしてくれていた読者がいたからこその受章。光栄です」と目じりにしわを寄せる。
○…東京都出身。大学卒業後、就職・結婚を経て、海外への憧れからブラジル移民に応募した。25歳から2年間、異国で生活し現地では日系人向けラジオ番組の広告営業を担当。「縁のない土地で働いて生きていくのはとても大変だった。でもそこでの記憶は今でも宝物」と振り返る。帰国後、大学時代の恩師から声がかかり、ブラジルでの経験を綴ったノンフィクション「ルイジンニョ少年」を35歳で出版した。「苦労したけれど『書く喜び』を知ってしまった」と、小説家になることを決意。児童文学を中心に作品を書き続けており、最新作「ナーダという名の少女」が3月に発売されたばかりだ。
○…「大好きな海のそばで暮らしたい」と13年前、鎌倉に拠点を移した。海岸を散歩するなどゆったりした生活の中で物語のイメージを紡いでいる。「妙本寺など静かな場所が好き。鎌倉はもう少し観光客が少ないといいのだけれど」といたずらっぽく語る。
○…ジブリ映画になり今年実写化もされた「魔女の宅急便」は「娘が中学生のときに描いた絵がきっかけ」で誕生した。ほうきにラジオをぶら下げた少女の姿にインスピレーションを得た。空を飛ぶというたった一つの魔法しか使えなかった主人公のキキ。「人間ってキキと同じで一つだけ魔法が使えるものなの。私にとってそれが物語を作ることだったと思う。誰にでもある自分の好きなことや得意なこと、それを見付けて育てて欲しい」。そう言うと穏やかな笑みを浮かべた。