長谷寺で水彩画展「鳥の目で見る鎌倉の寺社」を開く 柿沼 迪夫(みちお)さん 寺分在住 72歳
鳥目線の景色、緻密に描く
○…建物や風景を上空から見下ろした視点で描く「鳥瞰図(ちょうかんず)」の作品展を21日から開く。描いたのは会場となる長谷寺など、鎌倉の寺社。建物やその配置は現実に忠実に、一方で実際は伽藍を覆う周辺の樹木をほどよく減らすなど、航空写真とは違った美しさが魅力だ。「こんなに面白い世界があることを知ってもらえたら」
○…群馬県出身。都内の設計事務所で経験を積み、34歳で独立した。鳥瞰図制作を始めたのは8年前。香川県の寺院で五重塔の建設に携わった際、完成後の境内図の作成を依頼されたことがきっかけだった。全く資料がなかったため、ネットの地図を参考に配置図を作成。現地にも足を運んでしらみ潰しに写真を撮影し、直接測れない高さなどのデータはすべて計算で導き出した。「目を酷使しすぎて見えなくなり、病院に駆け込んだことも。本当に苦労した」と打ち明ける。だが、寺院独特の空気を肌で感じ、普段目で見ることができない世界を表現する楽しさに魅了されたという。
○…制作期間は1枚に約1年。現在、鎌倉の寺社を題材にしているのは「近くて現地に行きやすいから」と笑う。データさえ揃えば、一級建築士の本領発揮。A1サイズの紙に緻密な線を引き、水彩絵の具で着色する。CGは使わず、手描きにこだわる。「あれだけ大変だったのに、出来上がるとまた描きたくなる」と充実した笑みを浮かべる。
○…45年前に鎌倉へ。妻と暮らす家は、かつて父のために自ら設計したものだ。庭を臨む大きなガラス戸と開放的な高い天井が自慢だが「普通の家が良かったと父には不評だった」と笑う。現在も自宅を仕事場に、都市計画図や完成予想図などを手掛けている。「今は趣味ですが、鳥瞰図の仕事の依頼も増えたらうれしい」と意欲を見せた。