海老名むかしばなし 第32話 焼坊主【2】(最終話)
協議はいろいろの意見が出て長びいた。僧は心の緊張をほぐそうと、やおらふところからタバコを取り出し、火打ち石を使って火をつけた。
そのカチカチという音が、はからずも座敷の人たちの耳に異様にひびいた。「おや、床下が怪しいぞ」とみんなで縁の下をのぞくと人影がうごめいている。犯人を引きずり出して驚いた。今、自分たちが話題の対象にしていた住職その人ではないか。
一同は、これはてっきり放火事件と推量し、激怒のあまり火あぶりの極刑に処することにした。
僧は赤坂(杉久保の一地名)上の処刑場のもちの木にしばりつけられ、情炎ならぬ非情な炎によって、あたら一生を終えたのであった。以後この刑場を焼坊主というようになった。
このことがあってから約百年、明治二十六年(一八九三)に住職の霊を弔うべくここに供養碑が建てられた。碑は高さ約五十五センチメートルほどの卵形塔で、それには次のような文字が刻まれている。
正面に「真成院日満大徳」の改名、右側面に「芝増上寺八十三世 大増上境誉上人詠 無き人も今ハ 仏に成りにけり 名のみ残りぬ 苔の下た露」、左側面に「元禄十年八月十六日焼死 発起人 高橋義治 仝 今十郎 明治二十六年八月十六日建立」とある。
この建碑からもそろそろ一〇〇年、今もなお土地の人々の間にはショッキングな事件として語り継がれているのである。
参考資料/えびなむかしばなし
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