真鶴から小田原に向かう県道で赤い車輪を転がす男性に出会った。前田京剛さん(58)が調べているのは湯河原幕山や箱根金時山などにある登山道の正確な距離。「登山詳細図」シリーズ(吉備人出版)の新作のための踏査だ。
東大で超電導研究する前田京剛さん
「詳細図」は登山道の所要時間などを詳しく盛り込んだ地図シリーズで、西丹沢や奥多摩、高尾といったエリアが刊行されている。地図といえば無料のグーグルマップや国土地理院データのように、様々な形で世に出ているが、登山道の多くは斜面。上空から見た距離と実際の道の長さとは違う。
前田さんらは「ロードメジャー」と呼ばれる車輪型計測器やGPSを使って「より正確な」計測にこだわってきた。この活動を始めたきっかけは、4年前に小仏峠をハイキングをしていた時のこと。同シリーズの踏査や監修者でもある守屋二郎氏と偶然出会い、その後踏査や原稿の校正を手伝いながら、次第に読み手から作り手側の世界へと足を踏み入れていった。「これまで100回は通った」という箱根は、観光客が多いせいか山道は道標だらけ。それを立ち止まっては書き記す。岩場のある坂では車輪を転がすのも大変だ。
普段は東大大学院の教授として超電導など先端の技術を研究している。「仕事とは関係ないリフレッシュにもなっていますが、箱根のハイキングを愛する一人。徹底的にクオリティーを追求して読み手の皆様を喜ばせたい」。息抜きとは言いつつ、学者らしい凝り性が浮き出てしまうようだ。
箱根では約50回の踏査を計画しており、うち3分の1程度が終わったばかり。協力者も5人ほどいるが、アプローチしにくい山々も待ち受ける。刊行までの道のりはまだまだ長そうだ。