今月20日までの17日間にわたって「真鶴まちなーれ2017」が開催され、作品を巡る「アートレジャーウォーク」にのべ約400人が集まった。普段はさびれた風景に見える店舗跡の扉やシャッターが宝箱のように開き、大小の記憶を浮かび上がらせた。
11日のツアーには町内外から集まった14人が参加。町条例の「美の基準」の象徴ともいえるコミュニティ真鶴を出発点に、ガイドとともに細い路地を歩き始めた。体育館の壁や空き地に残る前回の作品も含め、ツアーでは10を超える作品に出会った。
途中で一般の住宅の前で立ち止まった。町の景観を守るために、あえて擁壁に凹凸を加えたり、石材風の外壁材を使っている。町民が生活の中で美を成している事例に、参加者が深く頷いていた。
酒屋の草柳商店に入ると、店の奥にある蔵に「サルベージド ビーナス」が待っていた。作者の木村幸恵さんは作品に寄せて「アートは単独では成り立たない、作った人、場所を提供する人、観に来る人などの協力が作用し、生き物のように立ち上がる」とコメントしている。 ある民家の前ではガラガラと民家のシャッターを開け、ツアーは真っ暗な空間の中へ。ぼんやりとオレンジ色の光が灯ると、かつて近くで営業していた鮮魚店の備品が浮かびあがり、再び過去に眠るように漆黒の空間になった。終点はかつて「真鶴銀座」と呼ばれ、賑わっていた商店街。旧「魚㐂代」店舗の「ウオキヨスク」内には往時の賑わいを留める包丁や船盛り用の小舟などが置かれ、ヨーロッパの市場風景のように演出されていた。
小学生の頃に町に暮らしていたという長瀬光男さん(56・岐阜県在住)は、今の風景と思い出とを重ね「ここには駄菓子屋や和菓子屋、それに銭湯もあってね。本当ですよ?『三丁目の夕日』の世界だった」と懐かしんでいた。