湯河原の万葉公園にたたずむ観光会館が人で埋め尽くされ、音楽で壁が震えた。成人式以外でここまで会館が賑わうイベントは本紙記者にも記憶がない。4月28日・29日の「湯河原温泉歌謡祭」で中心になったのは、湯河原中学校OBの、柳家睦さん(47)と西坂年男さん(47・バーテンダー)の同級生コンビだった。
イベントが生まれたのは4年前。「故郷湯河原に人を呼ぼう」と意気投合した事がきっかけだった。当初は旅館の貸切で開いていたが、好評で来場者が増え、観光会館に会場を移した。今回は「若者とお年寄を音楽で楽しませたい」と18歳以下と60歳以上を入場無料にした。
氣志團もステージに
出演した8つのバンドの中には柳家さんの知人の有名グループ「氣志團」も。観客には学ラン姿のファンや髪をリーゼントにしたファンもちらほら。冨田幸宏町長が挨拶し、地元の代名詞である芸妓の踊りも披露。氣志團の曲が始まると大勢の手が草原のように揺れた。ボーカルの綾小路翔さんは熱気みなぎる館内に「相当ホットな町、呼んで頂いて光栄です」と声を張り上げた。
沸騰した会場をかき混ぜたのが、地元ゆかりの「柳家睦とラットボーンズ」だった。柳家さんの実家は熱海の芸妓の置屋関係者で、親がバンドマンだった事もあり、湯河原中学校時代からギターを弾き始め、20代の頃からバンド活動を開始。今ではライブ活動で各地を回っている。この日の柳家さんはすらりとした身をスーツで包み、編んだ髪に仙人風の髭という、怪人のような出で立ち。その後は南米のカーニバルを彷彿とさせる楽曲の大洪水で、怒涛の随所に昭和ムードと危ない色気、哀愁がきらめく。かつて湯河原町に染み込んでいたのに、色あせつつあるもの。柳家さんはアルコール依存とも戦いながら、こうした曲を歌い続けてきた。宴の後で柳家さんに聞くと「田舎は有名人に弱いよなぁ」とぽつり。今後の音楽活動については「体に気をつけて細々とやるのが一番」とつぶやいた。
会場からは観客がなかなか去らず、ほとぼりは今年限りで冷めそうにない。