家族見つめた桜とお別れ 片平・小川さんの庭で大木を伐採
麻生区片平に住む小川裕弘さん・律子さん夫妻の庭で7日、約45年にわたり家族を見守ってきたソメイヨシノの大木が伐採された。
この木の生長を実の子どものように慈しみ、ともに生きてきた夫妻と桜の最後の日を取材した―。
小川さん夫妻は昭和44年頃、まだ丘陵の残る麻生区片平の家に越してきた。あたりはまだ造成が始まる前の未整備地で、裕弘さんは山道を、長靴をはいて通勤していたという。
そんな時分、律子さんが近所の山で、小さな苗木を見つけてきた。「何の木だろう」などと夫婦で話しながら庭に植えると、何年かして桜と分かった。
ガーデニングが好きな夫婦は広い庭のあるこの家で、桜とともに家族を育てた。子どもたちは芝生を駆け回り、桜の下で色々な遊びをした。木が大きくなり、庭全体を覆うようになると、春先はその花を愛でに多くの隣人、友人たちが集まるようになった。「桜の時期になると日ごとに花見の予約が入るほど。毎年スケジュールを組むのが楽しくて」。桜の木は、優美で心あらわれる春を幾度となく連れてきてくれた。
裕弘さんは言う。「いつの頃からか、桜の木を中心に、人々の絆が生まれた。知らない土地に越してきた私たちにとって、それはとてもありがたく、感謝しても感謝しきれない」
長男家族がこの家に戻ってくるのを機に、庭に新たな家を増築することを決めた。住宅密集地には不釣合いなほど大きくなった桜の木については夫婦で何度も話し合い、安全性も考慮したうえで、伐採を決めたという。
伐採の日、小川さん宅には数人の専門家が集まった。「これだけ立派な木は中々お目にかかれない」と職人たちは舌を巻く。職人たちの作業が気になって仕方ない様子の裕弘さんは、何度も現場を行ったりきたり。律子さんは「一番きれいで、立派な時に伐採できたこと、いい思い出とともにお別れできることに感謝したい。私たち家族を見守ってくれた桜。ありったけのありがとうを送りたい」と言い、お赤飯を炊いた。友人や近隣住民たちも、伐採を見届けにかけつけた。
最後の春となった今年3月。ソメイヨシノの大木は、これまでにないほどきれいに花を咲かせたという。目を見張るような満開の桜の下で夫婦はいつものように宴を開いた。「この桜をともに楽しんだ何人もの人たちの心に、健気な桜の木の記憶が残るだろう。桜との思い出を、いつまでも一緒に語ろうと思う」
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