麻生区版 掲載号:2014年10月24日号 エリアトップへ

麻生の歴史を探る 麻生郷〜区名由来〜

掲載号:2014年10月24日号

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今でも群生する苧麻(からむし)
今でも群生する苧麻(からむし)

 昭和56年(1981年)、川崎市は多摩区から分離する新区の名称について区名選定委員会(28名)を設け、広く居住者から新区名の募集をしました。その結果は、柿生区とするもの4256通、百合区436通、山手区268通などで、麻生区としたものは僅か156通で、柿生区が応募総数の約60%を占め、麻生区は2%に過ぎませんでした。

 それなのに区名選定委員会はなぜ新区を「麻生区」と名付けたのでしょう。それは麻生(あさお)という名が歴史的由来に価値があり新区の名称にふさわしい、としたのがその理由でした。それではその価値ある歴史的由来とは何か、また麻生という地域はどこを指すのでしょうか。

 麻生の地名はこの地方独特の谷戸々々急崖を「アズ、アス」と呼ぶことから、これが転訛したとも言われますが、これは地形地名で歴史的とはいえません。私は先に、本シリーズで麻生郷に関わる事を述べてきましたが、そもそも麻のルーツは山野に自生する苧(からむし)でした。「むさ」は苧の古語といわれ、この繊維を織って着物にしたことから武蔵国は「むさの国(からむしの国)」との説もあり(古語拾遺)、古代、麻は貴重な、特に神事には欠かせない民俗的植物であったのです。

 麻生の名の起源となる麻の栽培は、武蔵風土記稿によると「天武天皇の御世の天武元年(671年)、阿波の国より神職の一族忌部(いんべ)氏が都筑の地(早渕川流域)に渡来、苧麻を栽培し、麻布を朝廷に献上した説話」に始まりますが、この忌部氏の遠祖は古事記天岩窟の祭事を祀った神とされ、鶴見川流域に62社の杉山神社を建立、神事を併せ麻の栽培を奨めておりました。前稿茅ヶ崎神社の項には「2月春分ノ日、神供神酒ヲ献シ、神畑ニ麻種ヲ散ズ、神人等之ヲ勤ム 古ハ当郡麻生庄15ヶ村是ヲ勤ト言フ 7月7日梶葉供養、梶ノ葉ニ飯ヲ盛ッテ献ズ、梶トハ楮ノ事ナリ」とあります。楮(こうぞ)とは和紙の原料となる小木(カミノ木)の事で、「立秋ノ日、高机ニ主麻ヲ奉ジ、此麻ヲ氏子受ケテ産婦ノ守トス、此日麻生庄中ヨリ六宮宮(大国魂神社)ヘ新麻ヲ献ズ」とあり、古来この麻はこの地方の民俗文化を育んだ植物でありました。

 麻と苧(からむし)とは植物学的には同じものではありません。麻はクワ科の一年生で種を蒔き、葉が掌状に深く裂けるのが特徴で、繊維は繊細優美な糸を作ります。一方苧(からむし)はイラクサ科の多年草で繊維は強靭、今でも山野にそれを見ることができます。通常神事や祀には種から蒔いた麻が用いられ、古代租庸調の麻布や自分たちの衣服には苧が用いられていたのではないでしょうか。

 「麻苧(あさお)らを麻笥(おけ)に多(ふすさ)に績まずとも明日着せざめやいざせ小床に」

 これは天平勝宝7年(755年)万葉集の東歌に収められた、農民の妻が苧を詠んだ歌で、「麻糸を紡ぐ苧を桶いっぱい溜めても明日着るのではないから早く寝ましょう」の意です。当時の貧しい農民は野山に自生する苧を貯めての生活だったことが窺い知れ、そしてこの麻苧(あさお)の「苧(お)」が後に麻生の地名に大きく関わってまいります。

 文:小島一也(柿生郷土史料館相談役)参考文献:「新編武蔵風土記稿」「川崎地名辞典」「川崎市史」
 

苧麻の皮剥ぎ
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