5月に改装オープンする小田原城天守閣内の左官工事を手掛けた 長田 幸司さん 湯河原町土肥 41歳
土から芽生えた職人魂
○…繭のような足場が外れ、白い姿を見せた小田原城。改修事業の目玉でもある摩利支天像の空間再現工事に携わった。扇風機だけが響く天守最上階で丹念に「こて」を動かし、滑らかな表面にライトを照らして目を凝らす。仕上げるのに塗り重ねて乾かす作業を4度繰り返した。漆喰の材料となる石灰や角又などの配合を変えて練るなど、手間暇を惜しまない。「便利な既製の材料もあるけれど、便利すぎても感覚が鈍くなるんですよ」。何よりも伝統を残すため汗を流してきた大工たちに応えたい一心だった。
〇…左官業の家に生まれ、根っからの職人かと思えば「小さい頃は父を継ぐつもりはなかったんですよ」。現場にも連れて行かれたが、奥深さを知るには早すぎた。日大三島高から大学の商学部に進学した頃も、漠然と就職する未来を描いていたという。就職活動中、たまたま手伝いに行った現場が小田原城の銅門の復元だった。分厚い壁を作るため、土を団子にして竹の下地に押し込む「手打ち」の作業に不思議と心を掴まれた。
〇…「この道に進みたい」と父に相談し、知人のつてで京都の左官店へ修行に向かった。二条城近くのアパートに暮らし、親方について寺の本堂や一般住宅、ビルやマンションなどの現場に行った。下積み時代も不思議と土の感触に惹きこまれる自分がいた。「モルタルと感覚が違う。仕上がりもいいんです」。
〇…湯河原に戻って14年が経つ。父は一線を退き、今では5人の職人を擁する経営者になった。家に帰れば3人の子の父。家族に仕事の話はほとんどしない。「後を継げと一言も言われなかったので、私も言いません。子どもがやりたい事をやればいい」。事務所の片隅に、軒先の形をした波型の板が掲げられていた。聞けば20年前の銅門復元の時に使った「型」。父の仕事が、今日も職人たちを見守っている。
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