湯河原町農林水産まつりで出品したミカンが県知事賞を受賞した 常盤 雅也さん 湯河原町鍛冶屋在住 41歳
父が遺した樹のおかげ
○…テントの中にずらりと並ぶ温州ミカン。農家が1年の努力の結晶を持ち寄る品評会は壮観だ。糖度や酸味のバランス、色合いやサイズなど審査基準は様々で、しかも秋には日照不足と厳しい一年だった。ある日「表彰式には出ますか」という電話を受け、結果を知らされたという。記者が想像していたような笑顔のかわりに、淡々と「数年前に他界した父の仕事です。父の樹があったから」とつぶやいた。
○…吉浜小出身。湯河原中を経て小田原高校に進み、明治大ではミカンとはあまり関係のないフランス文学を専攻したという。意外な話の展開だったが「ほとんど本なんか読まなかった」と苦笑する。学生時代のイギリス旅行で買ったCDがきっかけで英国ロックのとりこになった。進路も音楽関連企業に決定。60年代アーティストの復刻CDのカバーや歌詞の日本語訳などのチェックを担当し、ビートルズのような大御所の作品にも関わった。ポーカーフェイスをちょっと緩ませて「ザ・フーとかハーマンズハーミッツ(※アーティスト名)も好きでしたね」。60年代のモッズ系ファッションと競馬を愛してやまない。いずれの趣味も、この町からは遠い存在。「昔の事」と付け加えた。
○…父からミカン畑を継いでほしいという言葉はなかった。それでも湯河原に戻ったのは、自分の判断とペースで働ける農業が魅力的だったから。サラリーマンから転身した当初は、講習会に出かけ、本を読み漁った。ミカンの剪定は少しでも長さを誤ると、規定サイズの実を結んでくれない。「父に聞いておけばよかった事は、沢山あります」。今の目標は柑橘類にとどまらず、様々な湯河原ブランドの野菜を作ること。収穫した後は個人名入りで地元直売店に並ぶため「食べたよ」「おいしかった」という声が何より嬉しい。取材が終わると、待っていたかのように勢いよくブーツを履いた。畑が呼んでいる。
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