幅20mの大型ステンドグラス作品の制作に携わった 大貫 誠さん 湯河原町中央在住 37歳
美しいものに背中押され
○…職場は温泉街近くの「クレアーレ熱海ゆがわら工房」。駅や空港などに設置するステンドグラスなどを作る。型紙に合わせてガラスを切り、組み合わせるのは作業の一部で、原画をガラスに「翻訳」したり、設置する場所に合わせて構図を調整するのが難しい。「ガラスは液体なんですよ」と難解な説明を始めるとすぐに時間が経ってしまう。つい最近まで有名な漫画をテーマにした大型作品に携わり、それを中心に毎日が回っていた。鉄道駅に設置されたばかりで、四季折々の光を透かし、作品がどんな表情を見せるのか、わが子のように気がかりだ。
〇…湯河原小に通っていた頃は教室で漫画を描いていた。建設会社で働く父は不要になった設計図を持ち帰り、それを裏返して描くのが好きだったという。湯河原中時代、美術の教科書に載っていたポスターに心を奪われ「これがやりたい」と神奈川工業高校デザイン科に進学。それが今につながった。クレアーレで働き始めた頃は、工房の所長でアート作家のルイ・フランセン(故人)が健在で、作業を手伝った。「ルイ先生じゃないと描けない線があって、絶対真似できない線でした」。ある日、大先生から「あげる」と一枚のスケッチを渡された。それは自分の後ろ姿だった。
〇…仕事は終業後に残り、集中して片づける。自身を作品に例えたら足りないパーツはあるのか。「結婚かなぁ。時間の濃さや使い方が変わるかも」。帰り道は温泉場から駅へと伸びるバス通りをてくてく歩く。電線が地中化された、お気に入りのコースだ。「三叉路や坂道もいい。歩道橋からの景色を肴に酒が飲めます」。当たり前の風景に何が見えているのか。取材を終え、眠たげにこすっていた両目が羨ましくなった。
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